無料携帯ゲームのコロプラにラブコールが殺到する理由
地方の名店をユーザーに紹介
コロプラは、プレーヤーだけでなく、プレーしない人にとっても魅力あるゲームとなっている。その魅力の源泉は『コロカ』を使った『お土産』のシステムだ。
「全国各地にその土地ならではの名物や特産品を売る老舗があり、どこも集客に智恵を絞っています。コロプラでは、あるお店の半径1㎞以内まで出向くと、ゲーム内のバーチャルな世界で特別な『お土産アイテム』を入手できるというしくみを作り、2009年3月から日光甚五郎煎餅を製造販売する石田屋さんと共同で実験的取り組みを始めました。これが全国のユーザーの間で話題となり、多くの人が日光に足を運ぶきっかけとなりました。さらにそのお店が設定した一定額以上の商品を買うと『コロカ』と呼ばれるカードをもらうことができ、そこに記された番号を入力することでゲームの中の世界でもさらにレアな『お土産アイテム』を入手、自分のコレクションに加えることができる。つまりバーチャルのコレクションと、リアルの移動を結びつける販売促進のしくみを作ったわけです」
2009年6月に、この日光の煎餅屋と、有田焼の窯元、加賀の造り酒屋、伊勢原のお茶屋さんの4店からはじまったコロカ提携店は、2010年5月末現在で全国61店ある。
「旅費をかけてでも行くべき名店を、3段階の選抜を経て選定しています。各県に4〜5店、合計200店舗以上には増やさない」
こうした姿勢がユーザーにクチコミで浸透。来店数増に驚く店主のコメントが繰り返しメディアで取り上げられ、ゲームをプレーしない人々にも認知度が上がっていった。新たな提携店の発表が地方紙で「○○○が、『位置ゲー』のコロプラと提携」とのヘッドラインつきで報じられるほど期待を集める存在となる。
かくして、ユーザーはお出かけのきっかけや旅の目的地を、提携店はこれまで手の届かなかった顧客層を、株式会社コロプラはユーザーや提携店の満足とともに物販に伴う手数料を手にできるという、すぐれたビジネスモデルが回りはじめた。
交通系企業と共同イベント
人を動かすビジネス、すなわち交通・旅行系の企業からも当然のように注目が集まり、タイアップ企画が動き出す。まず最初が「九州一周塗りつぶし位置ゲーの旅」(2009年11月から5カ月間の期間限定)。JR九州が発売した「コロプラ★乗り放題きっぷ」で域内の50駅を制覇するという、スタンプラリーであり札所巡りでもあるようなイベントだ。また、旅行代理店や地方自治体の協力で企画された『コロ旅』というツアーはプレーヤーのオフ会として人気を集める。マツダレンタカーとは割引特典で、ANAとも電子マネーEdyの利用で提携を結び、旅行予約のじゃらんnetとも協力関係にある。
東京メトロともJR九州と同様にスタンプラリー的な期間限定イベントを実施しているが、「各駅で食材を集め、架空のキャラに料理を提供する」という設定が加えられ、練りに練ったシナリオでプレーヤーにエンターテインメントを提供している。
「キャラクターの設定やセリフは外注せず、すべて内製しています。ストーリーがどう展開するかも、限られたチームだけの秘密。ゲームの世界観やユーザー体験に関わる部分なので、ここにはものすごくエネルギーを注いでいます。提携先や共同企画についても、ユーザーを裏切らないことをもっとも重要視しています。そしてあくまでわれわれはゲームであって、メディアではない。広告スペースを提供しているわけではないのです」
株式会社コロプラの収益は『投げ銭』と呼ばれるユーザーからの寄付と、コロプラが紹介した店舗からの販売手数料という2本立て。設立当初から無料サイトであることは変わらず、ユーザーからメールアドレスなどの個人情報も収集しない。だからそこには広告モデルはいっさい含まれていないのだ。
一貫した世界観のもと、すさまじい勢いで会員数を増やすコロプラに多くの企業が可能性を感じている。位置ゲーで人を動かすことで、人の流れをつくり、結果としてお金が付いてくるというスキームは存在し得たわけである。
日本を元気にする会社になりたい
「最近、宮崎県の口蹄疫に対し、正しい情報に基づいて冷静な行動を! とユーザーに呼び掛け、100万円の寄付を行いました。人の流れを作る会社だから、『コロカ』を一時的に無効にすることで人の動きを止めることもできる。しかしそれをやったら風評被害そのものであり、地元もそれを求めてはいない。観光には来てほしいし、移動時にきちんと消毒してもらえばいいわけです。
私自身もITベンチャー出身なのでよく分かりますが、この業界は日本のことをあまり考えてこなかった。でも生き残っているのは日本に受け入れられた会社ではないですか? 私たちも自分たちの事業が日本にとってプラスになるかどうかを意識しています。ゲームではあるけれどもユーザーに時間をムダ使いさせるのではなく、移動のきっかけをつくり、地方を元気にし、日本を元気にする。そして日本のGDP増にも寄与できる。そういうゲームにしたいと思っています」
執筆時点の会員数1 1 6 万人、2010年5月のページビューは16億PV。『位置ゲー』に秀でたコロプラの挑戦はまだまだ続きそうだ。