クラウドをめぐるリアルな戦い
深川孝行
IT事業を支えているのはインフラである。このインフラをめぐって、2つの大きな戦いが起きている。1つはデータセンター建設、もう1つは携帯電話のアンテナ建設である。仮想空間の覇権を目指し、リアルな駆け引きが繰り広げられている。
「コンテナ型」で後塵を拝す日本
世界のコンテナ取扱港ランキングで、大きく順位を下げる日本の港湾。「物流のハブ」は釜山やシンガポールに先を越され、このままでは「辺境」にもなりかねない。
しかし、クラウド・ビジネスの「キモ」ともいうべき、「情報」の集散地、「データセンター」についても、日本のスタンスはこのままでは「物流の二の舞」となりかねない状況で、しかもキーワードがまたしても「コンテナ」なのだから皮肉というほかない。
ITで先頭を走る米国では、データセンターといえば今や「コンテナ型」が主軸となりつつある。これは、まさに「コンテナの中に数百〜1千強ものサーバと、付属する配線類やストレージ、冷却装置など必要機材を丸々詰め込み、データセンターの最小単位を構築したもの」と定義すればいいだろうか。
まさに「モジュール化」だ。筐体には国際標準であるISO668の「20フィートコンテナ(1TEU)。6m×2・4m×2・6m」や、この2倍の「40フィート(全長約12m)/2TEU」を流用するのが主流。サーバ収容能力はメーカーや冷却方式などでばらつきがあるものの、2TEU の場合で1500〜1700U(サーバーユニット)といったところ。
「コンテナ型」の最大の「ウリ」は2つ。1つは、「コスト」、そしてもう1つは「機動性」だ。まず前者だが、既存の「建物型」の場合、鉄筋コンクリート製上屋の建設には莫大なコストと時間・手間が掛かる。だが「コンテナ型」ならば極端な話、敷地さえ確保できれば、数週間で巨大なデータセンターを持つことが可能だ。生き馬の目を抜くIT界において、「工期1年」などという悠長な施設建設はもはや「リスク」以外の何ものでもない。瞬時にデータセンターを立ち上げ、ビジネスチャンスを逃さない。「コンテナ型」が支持される所以がここにある。
実際米国では、地下駐車場やビルの屋上、既存の倉庫など、空きスペースを有効活用する形でコンテナを敷き詰めた即席のデータセンターが活躍している。
また「建物型」の場合、サーバの設置や増強のたびにSEや配線業者など技術者の応援を必要とする。一方「コンテナ型」は工場で量産されるので、その後内部をいじくる必要はない。予定地に「ポンポン」と並べて、配線や冷却水用のホースを繫げれば増設・更新は完了。まさに「フルターンキー」そのものの発想である。ちなみに冷却方法には水冷式、空冷式の2方式があるが、昨今の環境配慮の風潮とランニングコストの面から、外気を使った空冷式へと主軸が移りつつある。
また電力消費量に関しても、「コンテナ型」は「建物型」に比べて秀でているという。コンテナという必要最小限の空間だけを重点的に冷やせばよく、またコンテナの筐体を通じて直接外に放熱される部分もあるため、結果的にエネルギーロスが少ないという。
一方後者だが、これは1にも2にも「国際標準の1/2TEU コンテナに、データセンターを収納した」という発想が秀逸だ。国際標準コンテナならば、世界中の船舶や鉄道、トレーラー、港湾のクレーンなど既存の物流システムにそのまま載せることができる。そのメリットは計り知れないだろう。
「まさに広大な国土を誇る米国ならではの発想。内陸の長距離輸送は貨物鉄道、最寄りの貨物駅から目的地まではトレーラー、さらに海外展開にはコンテナ船と、積み替えが容易。加えてコンテナの筐体そのものを〝入れ物〞として使うので、空になったコンテナを『通い箱』よろしく持ち返る手間もない。また戦略上データセンターを移動させたい時は、短期間で撤収できるし、さらに不必要になったデータセンターをコンテナごと転売するのも楽。『建物型』ではこうはいかない」
と、某物流企業の幹部も舌を巻く。
一方、某大手電機メーカー幹部も、「米国で『コンテナ型』が支持されているということは、早晩これが世界のデファクトスタンダードとなることを意味する」と、「コンテナ型」への早急なる対応を示唆する。
対日進出を図る米国の巨人たち
さて、「コンテナ型」を最初に具体化したのは米サン・マイクロシステムで、2006年10月に「ブラックボックス」というコードネームで公表、周囲をあっと言わせた。(現在は「サンMDシリーズ」という商品名)
これを契機に、米IBM(PMDC=ポータブル・モジュール・センター)、SGI(ICEキューブ)、HP(POD)、マイクロソフト、HP、グーグルなど並み居る「ITの巨人たち」も怒涛のように「コンテナ型」市場に参戦。ラッカブル・システムズやヴェラリー・システムズなど、あまり聞きなれない米ベンチャーたちも同市場の成長性に目をつけて参入しているが、とりわけ前者は注目だろう。インテル製プロセッサーを搭載したサーバなどを大中規模データセンター向けに販売するベンダーとして旗揚げ。その後急成長を遂げ、なんと先に挙げたSGIを2009年に買収した実力派。つまりSGIがリリースした「ICEキューブ」とは、実は「ラッカブル仕込み」というわけで、今年春から日本への売り込みもスタート。国内でも定評のある「SGI」ブランドで勝負に臨む。
もちろん日本進出を図っているのはSGIだけではない。むしろ先鞭をつけたのは〝先駆者〞サンであり、IBMやHPなども続々と橋頭堡を築きつつある。
IIJの〝孤軍奮闘〞
では対する日本側の状況はどうか。結論から言って周回遅れの感は否めない。
米国勢の「コンテナ型」に相当するものは、今のところインターネットイニシアティブ(IIJ)が推進するモジュール型データセンター計画で、東芝やNLMエカル(日本軽金属系)、能美防災、河村電器産業の協力のもと今年2月から実証試験を開始、6月からはいよいよ来年の商用化に向けた施設建設に着手した。外気冷却方式を採用したコンテナユニットとしては本邦初で、節電・省エネにこだわり、既存のものに比べ消費電力を40%ほど削減した点が特徴。この辺りは「エコ大国」である日本らしい味付けだ。
施設の概要としては、電源・空調関係を集中制御する「コア・サイト」を中心に、独自サイズのコンテナ5コを最小単位(1基)として計4基、合計20コのコンテナを配すというもの。日本の道路法規を踏まえ独自サイズを採用したようだが、汎用性を念頭に置くならば、むしろISO規格を採用すべきではなかっただろうか。「ガラパゴス」的発想に一言、苦言を呈しておきたい。
その収容するサーバは全体で5千台規模を見込むが、実は常に実動するのはこのうちの3基のみで残りの1基=コンテナ5コ分はローテーション用の予備となっている。つまりコンテナ15コで5千台のサーバとなり、1コ平均約330台のサーバ収容能力となる。この値は米国勢と比べて遜色ない。
第1期として5モジュール(サーバ1600台。1コンテナ当たり320台)分を約11億円掛けて〝建設〞する見込みで、その後も需要に応じて増築していくようで、当座は同社が展開するクラウドサービス「IIJ GIO」のインフラとして供されるという。
IIJの試みは、わが国の「コンテナ型データセンターの夜明け」として意味深く、また完全露天型で費用対効果にも優れている点などが注目される。