ソーシャルメディアを論じる前に〜「ソーシャル」と「メディア」を捉える視点②
自動型ソーシャルメディアの特徴
しかし、今後という点で考えれば、大きな成長が見込まれ、またそれゆえに大きな課題も抱えることになると思われるのは、むしろ自動型ソーシャルメディアの方だ。この分野での動向は手動型ソーシャルメディアに比べて明確な思想性や社会ビジョンが薄いためかこれまであまり論じられることはなかったが、情報の取得や再利用が自動化されているという点で、好むと好まざるとに関わらず、多くの人を巻き込むものになるからだ。
まず、自動型ソーシャルメディアの特徴についておさらいしておきたい。既に述べたとおり自動型ソーシャルメディアとは、ユーザーの行動履歴などを数量的に処理することで、新たな付加価値を生み出すメディアのことだ。数的な処理を可能にする様々なパラメーターを取得するためにユーザーに特定の利用行動を促すサービスもあれば、無料でサービスを利用できるようにする代わりに詳細なプロフィール情報などを登録させることでマーケティング情報に用いるケースもある。
また、こうした情報を再利用する方法も様々だ。グーグルの検索結果表示順序は、よく知られているようにページランクという独自の指標に従っているとされるが、これは収集し処理した情報を、利用者のために無料で提供している例といえる。一方でGoogle AdWords のような検索連動型広告の場合、ユーザーの検索語やキーワードとの関連性といった、ユーザーの検索行動に由来する情報がグーグルおよび広告主のために用いられていることになる。
そもそも、世界初のコンピューターとも称されるENIAC においてすら、その利用目的は弾道計算や気象予測など、多くのパラメーターを短時間で計算処理する分野だった。そう考えれば、インターネット経由で収集したユーザー情報の数量的処理とその再利用というのは、ネット時代のコンピューターの正しいあり方を示していると言えるだろう。
ただ、この点については常に「プライバシー」の問題がつきまとう。多くのユーザーは必要以上の個人情報をサービス側に提供したいとは思っていないし、勝手に処理された情報から「あなたにおすすめの商品はこちらです」と言われることにも、薄気味の悪さを感じる場合があるだろう。自動型ソーシャルメディアは、果たして私たちのプライバシーを丸裸にする危険な道具なのか?
この点について、社会学者のデイヴィッド・ライアンは、現代社会の監視の特徴を、データの監視という点に見いだしている(※4)。人間の流動性が上がる現代においては、その個人そのものより、その人についてのデータを監視しなければならなくなるというのだ。あるいは「Dataveillance」という新たな造語を用いる論者もいる(※5)。これはつまり、ウェブサービスが私たちの情報を収集するという行為が、その人の私生活をのぞき見するようなものではなく、断片的で、それだけでは無味乾燥なデータを黙々と収集し続けるアルゴリズム的なものであるということだ。
たとえば私がAmazon でどんな本を購入したかということが分かったところで、そこからただちに私の思想信条や、どんな人とのつきあいがあるかということが分かるわけではない。実際に行われるのは、似たような行動をとった人と私の行動が比較された上で、次にとる行動をAmazon が先回りして予測し、「あなたへのおすすめ」を表示するということなのだ(むろん、そうしたデータのつなぎ合わせによって個人を特定し、悪用することは不可能ではない)。
スティーヴン・ベイカーの『数字で世界を操る巨人たち』(武田ランダムハウスジャパン)は、この「個人の監視」と「データの監視」の違いを、マーケティングを例に挙げて説明している(※6)。これまでのマーケティングでは、個人の嗜好やその他様々な情報をアンケートによって収集し、それをクラスター分析などの多変量解析によって処理することで、市場の中にどういう種類の消費性向があるのかという分析を行ってきた。しかし消費が細分化する中、分析の精度を上げようとすればするほど、最後は「一人ひとり消費の傾向は違う」という当たり前の結果に行き着いてしまう。
これは、消費を「個人」という単位で見るために起きる問題だ。消費者をクラスターに分類するということは、たとえば「ロックをよく聴く人はペプシよりもコカコーラが好き」といった枠に個人を当てはめるということである。むろん、ペプシが好きなロックファンもたくさんいるわけだが、その「取りこぼし」は、クラスターの細分化では補えないというわけだ。
個人ではなくデータを監視し、それらをまとめて数量的に処理するとき、そこで単位になるのは「行動」だ。「行動ターゲティング」とも呼ばれるデータの監視と処理は、特にソーシャルメディアのように、人びとが自分に関する情報を(ときにリアルタイムに)更新していくメディアと相性がいい。つまり自動型ソーシャルメディアとは、複数の個人の行動を定量的なデータとして処理することで、個人向けにカスタマイズされた情報提供を可能にするサービスなのだ。
この分野においては、ユーザーの情報が少ないとデータに偏りが生まれ、正しい結果を提供できないという問題(いわゆる「コールドスタート」問題)が存在するが、逆に言えば、利用者が拡大するほど得られるメリットも大きくなるという点で、寡占を生みやすいということでもある。どのような情報を取得するか、それをどう再利用するかといった点や、それらに関わる制度整備など、今後の課題も大きい分野だが、未開拓の領域も多いと言えよう。
※4 デイヴィッド・ライアン『監視社会』(青土社、邦訳2002年)
※5 Andrew McStay“Digital Advertising”(PalgraveMacmillan、2009年、未邦訳)
※6 スティーヴン・ベイカー『数字で世界を操る巨人たち』(武田ランダムハウスジャパン、邦訳2010年)