ITproのための「ももクロ論」補論②

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スペックは優劣か、付加価値か

ももクロではメンバーの互換性もきわめて低く、メンバー間に競争原理は働きづらい。こうした特徴は独自性とも、希少性とも深く結びついているが、ニーズの変化には強いとはいいづらい。

しかし、ももクロのファンは、メンバー間に競争を求めてはいないだろう。メンバーがじゃれあったり仲良くしている様子をプロ意識の欠如と見る者もほとんどいないだろう。これがAKBであれば、ファンは進んでメンバー同士を比較しメンバーのもつ競争優位性(たとえば握手会での対応など)を発見し、それをファンみずからの利益として考える。

この違いは何を意味しているのだろうか。スペックの差異を、優劣でみるか、付加価値としてみるかの、ファン(ユーザー)側のスタンスの違いとしていうこともできるだろう。優劣の判断は多くが期待されるスペックに対して行われるが、付加価値については予期しないものに対する個々の好悪に委ねられる。

クラスターを越境してファンとなった「モノノフ」にとって、アイドルへの期待値はそもそも高いものではない。この点は、育成されることをコンセプトにする(つまり未熟であることを前提とする)AKBも同様かもしれないが、成長の度合いは選挙などさまざまなかたちでメンバー間の格差として表れる。競争原理がもちこまれた時点で、スペックの差異は優劣として見られるしかない(そのスペックの差異はファン以外にはほとんど関心を向けられるような内容にはなっていないとしても)。

製品アーキテクチャに話をもどせば、モジュラー・オープン型には(比較可能な)スペックの優位性を求める傾向が強く、インテグラル・クローズド型には付加価値を求める傾向が強いという考え方もできるのではないだろうか。現在の多くの市場で見られる低価格化と高級化という二極の志向を、この2グループから読みとることもできるだろう。

アジャイル的なAKBとウォーターホール的なももクロ

ファンに対し運営側が(メンバーの選抜の方法などの)仕様を公開して、ひろく参加させることでグループの活動に反映していくAKBのオープン性はこれまでにも多くの分析がある。さらに付記するならば、未完成な状態のままリリースされるAKBとは、現在、注目される「リーンスタートアップ」的な手法であるとも言える。イノベーションの激化する市場環境に効率的に対応するために、商品サービスをプロトタイプの段階で市場投入し、そのフィードバックによって市場に適した品質向上と価値創造を果たそうとする取り組みである。

AKBグループのメンバーは、アイドルとして未熟な状態(研究生として)でデビューし、ファンからのフィードバックによって、方向性を見定めながら育成しされていく。ほとんどリーンスタートアップそのままともいえる。

近年、市場からのフィードバックに対応しながら品質を高めていくシステム開発やソフトウェア開発の技法に「アジャイル」といわれるトレンドがある。AKBの運営には、このアジャイル開発との親和もみられる。自生的に生まれたネットのファンコミュニティにおける感想や意見をフィードバックして、運営に反映しているのだ。ファンからのフィードバックだけでなく、他のアイドルグループの動向や、ゲーム、アニメといったコンテンツの市場環境の変化にも対応しているようにみえる。近年では珍しいほど、CDシングルのリリースの短いサイクルなどもアジャイル的といえば、いえそうだ。

一方のももクロはどうだろうか。ももクロは、ジャニーズ事務所の男性アイドル、たとえばSMAPや嵐といったグループのようにお茶の間に浸透する存在になりたいというビジョンに、紅白歌合戦出場、国立競技場でのライブといった具体的な目標値をおき、長期的な工程を設定して、そのなかに現時点のフェーズを位置づけながら成長を促してきたとともいえる(先日のライブで、リーダー百田が「大会場がゴールではない」と言ったことが、ファンに響いた理由もこのあたりにありそうだ)。

こうした視点では、アジャイル的にコンテンツ開発されるAKBに対し、ももクロには旧来の「ウォーターホール」型に近い開発思想が表れている。CDシングルのリリース・サイクルも長く、そのシングルごとに(大御所や気鋭の作詞家、作曲家を参入させて)新たな「設計」が加えられ、(彼女らが「アウェー」と呼ぶ)他ジャンルのイベントへのスポット出演といったかたちで「テスト」がくりかえされている。——こうして例えると、デビュー当時、メインで作詞作曲を行い、アイドル文化の基本をよく理解していた前山田健一氏は、ももクロの「基盤設計」をしていたといえば、意地が悪い分析になってしまうだろうか……。

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