大型家電量販店のライバルはスマートフォン〜リアル店舗vs.ネット通販の仁義なき戦い

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三浦一紀

 現在、大型家電店の売上が伸び悩んでいる。この最大の要因には、ネット通販の進化が関わっている。もはや、家電は店舗で買うものではなく、インターネットで買うのが常識。価格競争だけではない、家電販売の実情とは?

通販サイトのリアルへの侵略

駅前や国道沿いなどに出店している大型家電店。豊富な品揃えと、大量仕入れによる大幅な値引きにより、売上を伸ばしてきた。しかし、最近では売上が伸び悩んでいるという。この原因はなんだろうか。

そのひとつが、ネット通販の普及だ。アマゾンや楽天といった大型通販サイトは、価格が安いうえ、送料が無料の場合が多い。そして、注文後翌日配送が基本。オプションで即日配送が可能な場合もある。つまり、実際に店舗に足を運ばなくても、朝注文したものが夕方には自宅や会社に届くのだ。

また、インターネット上にある価格比較サイトの存在も見逃せない。価格比較サイトは、商品の価格を複数のネット通販ショップで比較。最安値のところが一目でわかるため人気となっている。

実際、品物のチェックを大型家電店で行い、注文は家に帰ってきてからインターネットで、という買い方をしている人も多いことだろう。筆者もやったことがある。ときには、自宅で調べておいたネット通販最安値の価格を店員に提示し価格交渉を行い、店頭で購入する場合もあった。

しかし、ここ最近ではさらに購入方法に変化が見られる。それは、「店頭で商品チェック→スマートフォンで価格チェック→注文」という流れになってきているのだ。これには、スマートフォンの普及が関係している。インプレスR&Dによると、2012年11月の時点で、スマートフォンの所有率は約4割となっている(ソース http://www.impressrd.jp/news/121120/kwp2013)。携帯電話に比べ、ウェブページの閲覧がしやすいスマートフォン。事前に自宅のパソコンで商品の価格をチェックするまでもなく、店頭でその場で価格チェックし、注文できる。これでは、大型家電店は立つ瀬がない。

通販サイトのための商品展示スペース化?

数年前までは、大型家電店にインターネットで調べた最安値をつきつけて価格交渉をしても、とりあってくれないことが多かった。実際、インターネットの最安値は時間限定であったり台数限定であったり、何か特別な理由がついているものが多かったためだ。だが、最近では通販サイトの価格値下げ率が恒常化しており、実店舗よりも安いのが当たり前になってきている状態。価格交渉をする手間を考えたら、その場でネット注文をしてしまったほうが効率的といえる。

こうなると、大型家電店はただの通販サイトのための商品展示スペースになってしまったといってもいいだろう。このような動きは「ショールーミング」と呼ばれる。特にデジタル関連製品の場合は、どこで購入しても基本的に品物の性能や状態は一緒。どこで購入しても同じものが手に入るならば、価格の安いところで購入したいと思うのは自然な流れなのだ。

家電量販店の危機感

このような状態に、大型家電店も黙っているわけにはいかない。2012年11月、アマゾンから電子書籍リーダー「Kindle」シリーズが発売されたとき、ヤマダ電機、エディオン、ヨドバシカメラが販売を見送った(ソースhttp://www.nikkei.com/article/DGXNASGF1607W_W2A111C1MM8000/)。自分たちのライバル会社であるアマゾンの端末を売ることは、アマゾンの通販サイトへの顧客流出につながると判断したためだ。もうひとつの理由としては、Kindle の利益率が10% 以下という点も挙げていたが、ビックカメラ、ケーズ電機、上新電機はKindle の販売を行なっている。ビックカメラ、上新電機はアマゾンに通販サイトを出店しているためと推測できる。

この事例を見ても、大型家電店が通販サイトに対して危機感を持っているということは、おわかりいただけるだろう。そしてもうひとつの事例が、「当日配送地域の拡大」だ(ソース http://www.yodobashi.com/ec/support/service/yodobashi_com/index.html)。ヨドバシカメラは2011年から都内を中心に当日配送を行なってきたが、2013年1月現在では、関東地方全域、山梨県、宮城県、名古屋市に加え、札幌、新潟、大阪、神戸、京都、福岡の全国主要都市およびその近隣地域まで対象地域を拡大。もちろん配送料金は無料。つまり、大型家電店がどんどん通販サイトのサービスを取り込み、ショールーミングを阻止しようとしているのだ。価格に関しては若干通販サイトのほうが安い場合があるが、即日配送サービスがあれば、自宅に帰る際の荷物を減らすことができるのでかなり便利といえる。

家電量販店は、いつか来た道を歩むのか?

大型家電店が進出しはじめたとき、いわゆる個人経営の「街の電器屋さん」が軒並み潰れてしまったことがあった。地域密着型のサービスで親しまれてきた街の電器屋さんに対して、広い売り場面積と商品数、そして低価格で顧客を奪った大型家電店だが、インターネットという無限大の売り場面積を持ち、低価格で迅速配送を行うネット通販に徐々に追い込まれているというのは、因果応報といってもいいだろう。時代は巡るのだ。それは歴史が証明している。

実際、大型家電店で冷蔵庫や洗濯機などの白物家電を購入しようとして店員を呼ぶと、そのほとんどがメーカーの派遣であることが多い。そのため、いろいろなメーカーの製品を比較したいと思っても、自分のメーカーのものしか勧めてこないということも多い。これでは、商品選びの参考にはならない。また、明らかに商品に対する知識が不足している店員も見受けられる。インターネットには情報があふれている。ちょっと検索をして調べれば、商品に対する情報はすぐに得られる。店員にはそれ以上の付加価値を提供する必要があるが、それすらないことも多い。

それならば、価格比較サイトで実際に購入したユーザーのコメントをチェックしているほうが役立つ。大きなものや高額商品だからこそ、第三者的な目線での比較が必要だが、もはや大型家電店ではそのような比較は行えないと言ってしまってもいい。

リアルの限界と可能性

大型家電店は広い売り場面積と品揃え、そして低価格がウリであった。だが、ネット通販の台頭でもはやメリットはなくなった。さらに低価格路線に踏みだそうにも、商品の原価や人件費などを考えると限界がある。安さ、早さ、情報量。どれをとってもネット通販に及ばない状況になってきてる今、大型家電店は大きな転換期に差し掛かっているのだ。

それでは、今後大型家電店はなくなってしまい、ほとんどがネット通販になってしまうのだろうか。今後大型家電店は、ネット通販に力を入れざるを得ない状況になってくることは明白だ。ただし、店頭販売がなくなってしまうということはない。やはり、まだまだ対面販売が必要な消費者も多いうえ、対面販売で購入したいという商品も多い。たとえば、大型の家電。テレビや冷蔵庫、洗濯機などは、実際に見てみないことにはサイズ感がわからない場合が多い。また、使い勝手が重要なので、店頭で触ってみたいという需要もまだまだ根強い。

さらに、個人の感覚が商品選びに影響を及ぼすものも、実際に商品を見て選びたい。こちらは、ヘッドホンやスピーカー、コンポ、CDラジカセなどの音楽系機器が当てはまる。いくら「音がいい」と評判でも、自分の好みに合っているかどうかがとても重要なジャンル。こればかりは、自分の耳で確かめてみるしかない。そのような商品は、やはり実店舗が必要となる。

逆に、デジタルカメラやオーディオプレーヤー、ゲーム機、ゲームソフト、電子辞書、BDレコーダー、PC、PC周辺機器など、小型かつ品質にばらつきがあまりないものは、ネット通販で手軽に購入したほうが消費者にとっては手間が省ける。

リアル店舗の機能を再考する

こう考えていくと、大型家電店は販売する商品を厳選する方向にシフトしていくのではないだろうか。これまでの大型家電店はなんでも売っているスーパーマーケットのようなものだ。しかし今後は、専門性を高め、より深い知識を持つアドバイザー的な店員を増やしていく必要がある。

参考になるのが外食産業。現在の大型家電店と同じような状況だったのが、ファミリーレストランだ。

ファミリーレストランの特徴は、和食も洋食も中華もひとつの店で楽しめる点だ。しかし最近では、同じグループで和食専門、中華専門、洋食専門と店を細分化。さらには、ハンバーグ専門、カレー専門、パスタ・ピザ専門、ビュッフェ専門というように、メニューのジャンルを絞った業態が増えている。経営側からすれば、ジャンルを限定することでよりメニューを厳選し品質を高められるうえ、専門店としてのブランドイメージアップや、同じ材料を大量仕入れすることによる低価格化といったメリットが生まれる。もちろんそれらは、消費者側のメリットにもなる。

おそらく、ファミリーレストラン業界では、ファストフードやデリバリーサービスなどをライバルとし、生き残るための施策としてジャンルの細分化を行なってきたのであろう。この戦略は、とても正しいといえる。

もはや消費者は、大型家電店を単なる商品展示スペースとしか考えてない。この状態では、来店者数は増えても売上は伸びない。ここはファミリーレストランに習い、各ジャンルに特化した方向にシフトしていくしかないのではなかろうか。冷蔵庫専門店、洗濯機専門店、エアコン専門店などなど、大型の白物家電を中心とした展開をしていけば、消費者の購入意欲も増すことだろう。

ネットの別ブランド化がカギ

一方で、ネット通販を強化することも必要だ。もちろん大型家電店でもすでにネット通販は展開されているが、アマゾンや楽天といったネット通販専門サイトに比べると、ややインパクトが弱い。これはおそらく、大型家電店の名前の印象が強いため、ネット通販をする際に、頭に思い浮かばないのではないだろうか。

いっそのこと、大型家電店のネット通販部門は完全に別ブランドとして展開。

名称もまったく別のものにし、ネット通販専門としたほうが消費者のイメージも変わるだろう。

前述したファミリーレストランの別ジャンル展開の場合も、店の名前はまったく別なものになっているか、グループ会社とわかるように名称の一部だけ固定していることが多い。多分、利用している消費者は、あの洋食ファミリーレストランとこの和食ファミリーレストランが同じ系列であるということに気が付いてないことが多いはずだ。また、消費者にとってどことどこが系列店であるかということはそれほど重要ではない。おいしくて安くて、おなかいっぱい食べられれば、どのチェーンであろうが関係ないのだ。

リアルとネットは対立しない

以上のようなことを考えると、大型家電店は専門性の高い実店舗と、手軽に商品が購入できるネット通販を両立していくことこそ生き残る道のように思える。ネット通販専門サイトに対するアドバンテージは、実店舗があること。今後は、この2つの販売経路をどのように自立させ、そして融合していくか。それを考えなければ、店員の目の前でスマートフォンからアマゾンへ注文され続けるだろう。