アパレル系ECサイトが示すユーザーコミュニケーションの意味〜ヤングレディース向けブランド、サルースの取り組み

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編集部

 加速度的なコモディティ化と、それにともなう価格競争が激化するファストファッションの世界で、ECサイトはどのような意味を持ちうるのか、楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーズに輝いたサルースの例から探る。

コミュニケーションの重要性

ただでさえ商品のコモディティ化のスピードの早いアパレル業界、そしてサービスの差別化の見せにくいECサイトにおいて、現在では、おびただしいほどの数のブランドがしのぎを削っている。

アパレルECサイトの戦略の根本にあるのも、他業種と同様、消費者とどのようなコミュニケーションを確立させるかである。しかし、ブランドのストーリーが重視されるファッション、アパレル業界でならではのコミュニケーションスタイルがあり、その確立は他業種以上に困難であることもまた事実である。

価格競争の嵐

2008年のリーマンショック以降、価格競争が激化するなか、ファッションジャンルでは薄利多売の傾向が以前にもまして強くなっている。数多のファストファッション・ブランドの市場への乱入は、そうした流れのひとつであり、当然、ECサイトもその流れのなかにある。

ネット通販をみると、特にECモール内(なかでもとりわけ楽天)では、新規顧客獲得、他店舗・他ブランドからの顧客横奪のためだけに、利益を無視した販売戦略でやみくもな売上拡大を目指す方向が目立った。

消費者からすれば、ECサイト上での商品選びは、商品写真のほかには素材、

サイズなどのスペック表示をもとにするしかない。そのことはリアル店舗での購入を比較するまでもなく、リスクの高い消費行動と言わざるをえない。そうなると、類似した商品なら、より低価格であるほど、そのリスクを低減できる。失敗購入を想定した消費が、ユーザーの意識に刷り込まれており、それがECサイトにおけるアパレル商品購入のリテラシーとも呼べるものの一端を形成している。

コモディティ化された低価格商品を購入するという、リスクヘッジされた消費行動が、ECサイト側により過酷な価格競争を促しているわけである。

しかし、こうした価格競争は単なる消耗戦であり、行き着く先にあるものが業界自体の地盤沈下を誘発させるものであることは、どの企業も気づいている。

ユーザーにECサイトでのアパレル商品購入の最大のネックとなっていたのが、失敗購入のリスクであるならば、そのリスクをいかにECサイト側が担保し、ユーザーの信頼を得るか。多くのECサイト戦略のトレンドがこの点にあるのは言をまたない。

ユーザーからの信頼感を醸成するために、さまざまな取り組みがなされているが、そのひとつがレビュー機能の搭載である。今や商品レビュー掲載の有無は、(ユーザー側の商品検索で優位に立つための)SEO対策としても不可欠なものとなっている。

サイトのユーザーコミュニケーション機能の差が、売上の差を左右するようになっている。ユーザーとの(あるいはユーザー間の)コミュニケーションが充実しているサイトは、さらに多くのユーザーを集客し、そのことがさらにコミュニケーションを充実するという回転を加速させているからだ。有り体に言えば、売れる店はより売れ、売れない店はますます売れないという状況が生まれている。

レビューなどのユーザーとのコミュニケーション機能は、利用するユーザーが多ければ多いほど充実し、レビュー数が増えれば、商品に対する関心の高さがそれだけでも判断できる(検索エンジンにも上位表示される)うえに、レビューの内容によっては、ユーザーのリスクを未然に取り除くこともできる。商品の評価をシェアすることで、ユーザー側のサイトに対するロイヤリティも向上する。商品選択の情報が豊富にあることは、大きな信頼感につながることは当然だからである。

これらの機能搭載が遅れたり、なかったりするサイトはもはやユーザーの視界に入ることさえ難しくなっている。そうしたサイトは広告費を費やしユーザー認知を広げようとするが、もはや市場で闘う前提条件となっている価格競争のなかで莫大な広告費が売上を圧迫しかねない状態なのだ。そもそも、マスメディアを使うなど予算の大きな広告戦略がとりづらい中小規模の企業にとっての福音であったECサイトの隆盛が、かえって広告費を膨らますことになっているのであれば、それは皮肉でしかない。実店舗とECサイト

Salus(以下、サルース)は、本社を大阪に構える。激戦のアパレルECサイトで事業展開し、低価格化、コモディティ化が最も苛烈なヤングレディース向けの商品・サービス展開をしており、販売サイトは自社サイトのほかに、楽天、Yahoo! Japan、ビッダーズの3サイトに出店している。

2009~2010年、2012年には、約4000の出店者のなかから30ジャンルで各3店が選出される「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーズ」にも選ばれている。

その取り扱いアイテムは、アパレル50%、シューズ50%だが、そのターゲットはいずれもC2(13~19歳一般)、F1(20~34歳女性)の層である。

その苛烈な市場で戦うサルース代表の木下秀夫氏に、現在のアパレル系ECサイトの動向を訊いた。

実店舗とECサイト、リアルとネットでの違いは、消費行動にどのような影響を与えているだろうか。

「サルースでは2008年度より実店舗展開をしてきましたが、ネットをみて来店されるお客様の割合が多くなっている傾向です。とはいえ、ネット利用のお客様はサイズ感などを確かめるために来られる傾向があり、店舗で実際に商品を手にしながら、購入にはつながりませんでした。そのため、実店舗の売上に貢献するということはありません。

もちろん、ブランドによる違い、商品構成による違いはありますので、実際にはさまざまなケースが考えられますが、サルースの場合はネットショッピングの補足的役割が実店舗となっているのが現状です」

ここで注目したいのは、やはり消費者側の意識である。先に見たリスク感覚が、このような行動につながっているのは明らかだろう。モニタ上での、商品判断に対する不安が、実店舗へ足を向けさせているわけである。それは、実店舗で商品購入を行わないことにも表れている。必ずしもユーザーは、目的の商品を購入するために店舗を訪れていない。目的の商品があれば、店舗で購入する方が自然に思われる。

もちろん、近年では購入した商品を自宅まで運ぶ手間を嫌い、店舗で確認した商品を改めてネットで購入し、サイト側の配送サービスを利用する例も増えてきている。しかし、ユーザーに購入直後からの使用を促すアパレル商品であることと、学生やOLなど平日は自宅にいることが少ない、つまり商品の受け取りに時間的な制約の発生する配送サービスの利用に親和性の低いターゲット層を鑑みれば、実店舗で目的の商品を見つけた場合に購入を避けることは考えにくい。

ECサイトから誘導されて実店舗を訪れるユーザーの多くは、目的の商品そのものを購入するのではなく、そのブランドや、展開する商品全般についての検証を行っているのではないか。つまり、ユーザーが見ているのは、商品そのものではなく、ブランドの雰囲気であり、サイトでは得られない商品・サービスの品質情報ではないか。

これらの行動は、ECサイトでの購入を前提としたものであるのは間違いなさそうだが、消費者心理の底にあるのは、ここでもやはりECサイトに対する不安ともいえる。

 ユーザーレビューの重要度

では、実店舗を訪問しづらい地方在住のユーザーはどうだろうか。

「都市部と地方によって売れ筋が変わるというようなことはよほど気温差のある地域などでない限り見受けられません。売れているものが売れる。その理由は他人のレビュー、評価やランキングなどに影響されているからだと思われます」(木下氏)

地方のユーザーは、都市圏ユーザーに比較すれば、商品・サービスに対する情報が不足することは否めない。そうなると、都市圏ユーザーが実店舗を訪れた際の情報や、実際に商品を購入したユーザーからの情報が重要になる。いわば、情報の不足するユーザーの商品購入の判断を、レビューを介して他ユーザーが代替しているわけである。

このレビューを介した代替行為には、2つの意味がみてとれる。ひとつは、前記のようなユーザー側が求める不足情報を補完している点であり、もうひとつがECサイトを運営する企業、ブランドの信頼感を、情報を提供する側のユーザー(レビューアー)が担っている点である。ある意味では、レビューアーの質がECサイトそのものの評価を決定するファクターとなっているということだ。

レビューを参考に商品を購入した際、仮に、その購入が失敗であった場合、商品購入したユーザーの評価は、レビューアーへの評価とECサイト(とその運営するブランド)への評価の2方向に分かれる。そのことが、ECサイトにとってはジレンマになっている。

レビューアーがECサイトや商品・サービスへの消極的な評価へのクッションとなる場合もあるが、サイト側にはコントロールできないレビューアーの質が、ECサイトそのものの評価を決定する場合があるからだ。

こうしたジレンマは、レビューの総数を増やすことでしか解消できないはずである。数年前に飲食系の評価サイトで行われていた、サイト側の意図的なコントロールは、コンプライアンス上、許されないだけではない。高い評価も低い評価もオープンに公表することが、ユーザーに信頼感を醸成するものになっているからだ。ユーザーは、ECサイトにおける情報のオープン性に非常に敏感になっている。

評価の基準はレビューアーに委ねられており、評価方法をルール化することが端的には難しいとなれば、レビューアーごとの評価基準を、情報を得る側のユーザーに判断させるほかないわけで、そのためには、レビューアーが行ったレビューの数が重要なのである。レビューの総数が意味するものは、この点でも非常に大きい。

レビューの総数は、利用するユーザーの総数にほぼ比例していると見ていいだろう。であれば、ランキングなどの機能も充実する。総数の多いランキングが、よりユーザーの信頼感を得ることはいうまでもない。

ECサイトなど、ネット上のユーザーコミュニケーションの将来について、木下氏はこう言う。

「アマゾンに代表される『あなたにおすすめは〇〇です』といったようなパーソナルサービスが代表的なものだと思いますが、今後はさらに進化していきウェブが個人のコンシェルジュのような役割を果たしていくのではないでしょうか。そうなれば到底リアルでは真似のできない究極のコミュニケーション、接客サービスが可能になると思います」

ストーリー訴求の変化

本稿の冒頭で、ECサイト上での商品選びは、商品写真のほかには素材、サイズなどのスペック表示が基本となると述べた。サイズなどの表示方法が、数年前に比べて充実する傾向にあることは、アパレル系ECサイトを利用したことのある者なら周知の事実だろう。より詳細なスペック表示は、データ的な判断基準が有効になる数少ない点であるから、当然の流れである。

しかし、ことアパレル商品で考えると、商品購入について、消費者が最重要視するのはデータではない。むしろ、データ以前に購入が促され、その後、データによる最終判断が行われるとみるのが自然だ。

データ以前に商品購入を促すものとは、可視化の難しい商品ストーリーや、ブランドストーリーである。そうした情報をユーザーに提供するものとして、各アパレルECサイトが強化しているのが、商品写真などのビジュアル表現である。

ECサイトにおける商品写真が訴求するストーリーを、実店舗におけるストーリー訴求との比較で考えてみたい。木下氏の意見を聞いてみよう。

「店頭では、3体ほどのマネキンに、打ち出し商品を着せ、入り口付近にシーズン商品を並べることによってストーリーを訴求しています。一方、サイトではモデル着用画像やテキストを多用することで、より五感に訴求するような取り組みをしています。

店頭では、スペースの関係上、提案に限りはありますが、サイト上では無限に提案が可能となることが、ストーリー訴求の点で優位であると考えています。お客様には、より自分に合ったライフスタイルを実感してもらえるのではないでしょうか」

実店舗では、マネキンが着用した1パターンのみの商品の着用例が、サイトであれば、着用例のビジュアルの点数を増やすことで複数パターン可能になる。セグメントの異なるユーザーに、同時に商品ストーリーを訴求することも難しいことではない。同一商品のTPOの異なる着用例についても、同様のことがいえるだろう。

価格とストーリーのバランス

ECサイトの優位点はこれだけではない。

ECサイトは、チラシ広告的な商品比較と、店舗的なストーリー訴求の中間に位置するものだからだ。

ECサイトでは、同時に複数の商品を容易に比較することができるだけなく、

他ブランドとの比較も簡便である。この点が、他ブランドからの顧客横奪を促進していることもあり、企業側からは決して歓迎できることばかりではないが、店舗的なストーリー訴求の充実による差別化を進めることを促してもいる。

もちろん、商品比較を容易にしていることは、コモディティ化した商品により激しい価格競争を強いていることも見逃すことはできない。

「ECサイトで売上を伸ばすためには、価格訴求から入る場合が多いと思います。そのうえでサイトの特徴、強みを明確に出すことにより顧客獲得をしていくトレンドにあります。サルースのお客様層であれば、いかに『カワイイ』と感じてもらうかが、ストーリー訴求の最重要点です」(木下氏)

ユーザーがECサイトにおいて、価格とストーリーのどちらを重視しているかがわかりづらいのは当然のことである。

「安いだけでも駄目、『カワイイ』だけでも駄目、安心感は当たり前ということで、安心感があり商品に対してお値打ち感が得られるバランスが大事なことだと思います」(木下氏)

このバランス感にいかに照準を合わせていくか、また、バランスについてのユーザーの感覚にいかに同調していくかは、実店舗における顧客とのコミュニケーションも含め、ユーザーコミュニケーションしか手法はない。コモディティのなかに、どのようなストーリーを加味できるかのヒントはユーザー側から得るしかないためである。

「コモディティ化による価格競争にいかに対抗するかは、やはり、いかにブランディングを固めるかにつきると思います。それはイメージであり、価格であり、品質であり、サービスをよりいいものにしていけるかという当たり前のことを続けていければ、ある一定のブランド力が保たれると思います。

何故サルースで買ってくれるのか?をレビューなどで見ると『安くて、カワイイ商品がたくさんあり、問い合わせにも丁寧に答えてくれて安心して買えるから』という意見が多いです」(木下氏)

ユーザーの求めるコミュニケーション

ユーザーコミュニケーションを進化させているのはECサイトである。

サルースでは、実際にどのようなユーザーコミュニケーション施策をうっているのだろうか。

「ユーザーとのコミュニケーションと一口にいっても、さまざまなことが考えられます。

ECサイトのお客様に対しても、レビュー、ブログ、SNSなどクチコミを促進するものから、サルースでは週5回発行しているメールマガジン、挨拶状、ロイヤリティの高いお客様を対象としたクーポン、お問い合わせ対応、さらに配送用の包装、配送方法や支払い方法の多様化など、ユーザーとの接点は無数にあります。

サルースで特に力を入れているのは返品がしやすい店舗であることです。その理由は買い物時の不安を取り除くためです。施策としてはサイト内告知と商品にわかりやすい返品説明書を同封します。それにより実際の返品率は3~4%で決して高くなっていません」(木下氏)

ユーザー側のリスクヘッジとして、返品は最大の効果がある。企業にとって負担は増すが、返品可能であることをユーザーに周知徹底することが、かえってユーザーからの返品を減らしている実情は、ユーザーに対するブランドの信頼感を担保し、ブランドの自信を見せることでストーリー訴求をも担っているからとみてよいだろう。

こうしたユーザーコミュニケーション施策を通して獲得した顧客を、ロイヤルカスタマーにしていくことが、ECサイト運営の肝となってくる。

顧客のリピートは何によって支持されているのだろうか。

「まずは(商品と、商品がもつストーリーが)自分好みであるかどうかが重要なのはいうまでもありません。そして最初に購入した商品に対する満足感が高ければリピーターとなると考えています。その後はメールマガジンなどのコミュニケーションが大きなポイントです。

お客様が求めているものは、やはりかわいい商品を買って友人や彼氏、家族に誉めてもらうことに尽きると思います。また買った商品をブログやSNSで勧め、共感してもらうことでさらに満足感は高まります」(木下氏)

ユーザーが商品購入を通して求める帰属、承認の欲求に応えること。特に女性消費者の仲間内でのコミュニケーションにどのように貢献できるかは、ユーザーコミュニケーションを促すうえでも、最も注目すべきことであるようだ。

女性消費者がアパレル商品に求めると考えがちな「個性」をどのようなものと捉えているかにも留意がいる。ヒット商品の動向などから、その点が垣間見える。

木下氏はこう述べる。

「人と違う個性よりも、憧れている人や仲間と同じものを身に付けたいとする傾向が強いと思います。サイトでは何が売れているかなど楽天やアマゾンなどのランキングでわかるので、ランキング上位商品や、好きなブロガーの勧める商品は爆発的に売れる場合があります」

ユーザーの求めるものが、コミュニケーションに寄与するものであることがよく見える状況といえるだろう。

ECサイトの定着によって、「かわいい女性が増えてきた」と木下氏は語る。

「まずはインターネットの普及で情報量が圧倒的に増えたことと、アパレルの商品価格が非常に低下したことにより自分を磨きやすい環境ができたのではないかと思います。

また、年相応という概念がなくなり、いつまでも好きな自分でいたいという考えが強くなったからではないでしょうか」

アパレル系ECサイトが、女性の生活に大きな変化をもたらしていることは間違いない。そのうえで、キーとなるポイントがコミュニケーションの充実にあることは、本稿でこれまで見てきた通りである。

最後に、木下氏にサルースの姿勢について伺った。それをもって本稿を閉じたい。

「ひとつの例を挙げますと、以前足の大きいお客様から『25・5センチ以上で安くてかわいい商品がないので困っている』というメールをいただき、調べてみると確かに低価格でファッション性の高い商品はあまりなく、であるならば、そのように困ったお客様がたくさんいるのではないかと仮説をたて、人気のある商品で大きなサイズ展開を試みたところ予想以上に販売できたという経験があります。それ以後、大きなサイズは定番化して一定の顧客を得ることができました。

それだけではありませんが、きちんとお客様とコミュニケーションして、できる限り応えることがサルースの仕事だと考えています」