ウェブは“空間”を資源化する〜ソーシャル時代の情報空間論 第2回

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空間からの独立度がもっとも低い意味の空間の例としては、スマートフォンのアプリなどを用いた「ゴルフ場のナビゲーションシステム」がある。これは、あらかじめ登録してあるゴルフ場のデータと位置情報から、ボールの飛距離やグリーンまでの距離を測定するというもので、スマートフォン向けアプリのほか、単体の端末としても提供されている※3。こうした機器によって「ゴルフ場」という現実空間は、「グリーンまでの距離が○ヤードなので、×番のアイアンを使う」という分析が可能な空間になる(まるでゴルフゲームのように!)。いわば「空間の解像度が上がる」のだ。

その一方で、その空間からは独立した、「空間に新たな意味を付与する」というケースも考えられる。電通、パナソニックなどが2010年2月に実施したイベント「光のマジカルクエスト」では、大阪市北区の阪急三番街北館を舞台に、電波のつながりにくい屋内でも限定的に利用できるGPSを用いた「宝探し」が行われた。イベント参加者にGPS受信機やタッチパネルが搭載された専用端末を貸し出し、端末に表示されたマップを見ながら、秘密が隠されたポイントを探っていくというこの試みは、ある空間一帯をまるごと情報空間にしてしまったという例だ。

とはいえこの場合にも、空間の意味はその空間に関係付けられたものになっている。だが、その空間とはまったく関係のない意味が、ある空間の中に生まれるというケースもあるのだ。

2009年7月に発売されたニンテンドーDS向けのゲーム『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』には、「すれちがい通信」というDSの機能を利用して「宝の地図」と呼ばれるゲーム内イベントをダウンロードできるというシステムがあった。すれちがい通信とは、電源の入ったニンテンドーDSどうしが近くに来ると、ユーザーが何も操作しなくても自動的に無線通信が行われ、ユーザーの情報を交換したり、ゲーム内のアイテムを相手から受け取ったりできるという機能だ。この機能で入手できる宝の地図の中には、入手の難しいアイテムが手に入れられたり、キャラクターのレベルを上げるのに向いていたりするものがあり、こうした地図を「すれちがい」によって入手することが、ゲームの醍醐味になっていたのだ。

とはいえ街を歩いていて偶然、同じ『ドラクエⅨ』をプレイしているユーザーと出会い、すれ違う可能性は高いとは言えない。そこでプレイヤーたちの間で自然発生的に生まれたのが『ドラクエⅨ』のプレイヤーが集まり、すれちがい通信を行う場所、通称「ルイーダの酒場」である。ルイーダの酒場とは、ドラクエシリーズにおいては「冒険者の集う酒場」として知られている場所だ。プレイヤーはここで仲間となるメンバーを集めることができるのだが、プレイヤーたちはそれに見立てて現実空間を「『ドラクエⅨ』プレイヤー=冒険者の集まる場所」に仕立て上げたのだ。

興味深いことに、すれちがい通信はその特性上、通信を行う相手ユーザーとの会話を必要とするわけではなく、そもそも誰とすれ違ったのかを確認することも困難である場合が多い。そのためルイーダの酒場における宝の地図の交換も、彼らがそこで会話をするのではなく、黙って『ドラクエⅨ』をプレイしたり、ただその場に立っていたりする間に行われていたのだ。傍目にはルイーダの酒場は、それと知っている人間以外には「なぜかニンテンドーDSで遊んでいる人が会話もせずに集まっている場所」にしか見えなかっただろう。つまりこのとき、ユーザーたちから見れば「ルイーダの酒場」という情報による「空間の意味の上書き」が行われていたのである。

※3 GPS計測のリアルゴルフシミュレーションソフト「GOLFな日」http://mapple-on.jp/products/golfnavi/
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