Facebook再上陸以降のソーシャルメディアとマーケティング的用法〜ソーシャルメディアミックスの可能性

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匿名登録が主流の国内SNS に割って入った〝実名主義〟のFacebook は、実名登録であるがゆえに、他の特徴あるソーシャルメディアを結びつけ、より大きな流れを巻き起こす。

オガワカズヒロ

 

ソーシャル化された民主化運動の登場─ジャスミン革命

2011年に入って、日本国内においてもFacebook の急成長が始まっている。

そのきっかけになったのは、映画「ソーシャル・ネットワーク」の意外なほど高い観客動員力であるのは事実だが、同時に世界を揺るがしつつある中東を中心とした一連の政変におけるデモ動員の原動力として、Facebook が大きな役割を果たしているという認識が、新聞やテレビなどのマスメディアを通じて広く伝えられたことも大きい。

2010年末、ある貧しい青年の自殺が発端で始まったチュニジアの暴動は、Facebook をはじめとするソーシャルメディアの力を借りて一気に全国的な革命運動へと成長した。さらには同じような強権的政権下にある、国外の中東諸国にまで飛び火する。

チュニジアでは、若年層の失業率が実に30%以上に達していたことを背景に、高学歴であっても仕事に就けない若者の不満を爆発させることになった。彼らはテキストだけでなく、ソーシャルメディアを使って、画像や動画、音声など、さまざまなコンテンツを公開し、共有した。これによって、23年間にわたってチュニジアを治めていたベン・アリ政権が2011年1月に、ベン・アリ大統領自身が国外逃亡することで崩壊する。この民主的な革命運動は、チュニジアを代表する花にちなんでジャスミン革命と呼ばれるようになる。いまやジャスミン革命とは、チュニジア一国の革命事件を指すのではなく、情報共有やデモなどの集会の連絡や動員のために、Facebook やYouTube やTwitter、WikiLeaks などのソーシャルメディアをフル活用している一連の民衆蜂起を象徴する言葉になってきた。言い換えれば、ジャスミン革命とはインターネットによってソーシャル化された革命運動である。

チュニジアは日本の40%程度の国土だが人口は東京程度の小国だ。しかし、インターネットのユーザー、しかも圧政や貧困に不満を抱く若者たちに国境は関係なく、想いは共有されていく。チュニジアでの短期間での革命の成就は、そのままエジプトやバーレーン、レバノン、リビアなど、強圧的な長期政権が続く中東諸国、さらには共産党独裁の中国の世情までも揺るがすようになる。事実エジプトでは2月11日、30年もの独裁体制ながら親米路線を維持してきたムバラク大統領が退陣に追い込まれた。リビアにおいても同じく長期にわたり独裁者として君臨してきたカダフィ大佐が、かつてない苦境に追い込まれている。

 

Facebook が革命運動のプラットフォームに

 

もちろん、ソーシャルメディアそのものがジャスミン革命を後押ししているのではない。鬱屈した若年層の経済的な不満と、政治的自由が押さえ込まれていることへの怒りこそが原動力であり、Facebook にしてもそれら不満や怒りをフラットに共有し伝え合うことの場になっているに過ぎない。

しかし、チュニジアにおいて最初の本格的な暴動が発生してからわずか1カ月で独裁者を亡命させ、エジプトにおいてもチュニジアの政権崩壊から同じく1カ月ほどでムバラク大統領を退陣させたような、瞬発力ある革命の実現は、ソーシャルメディアがなければありえなかったのは確かだ。

Facebook をはじめとするソーシャルメディアが、連鎖するジャスミン革命において果たしている役割は、大きく分けて二つあると考えられる。

一つは、主義主張などの思想的なコンテンツを広く公開し、共有するという活用方法だ。つまり、クチコミを発生させ、拡散させ、醸成していくという役目である。クチコミの構成要素としてはテキストだけでなく、動画や音声など、より説得力のあるコンテンツも含まれることは言うまでもない。

もう一つの活用方法は、デモなどの集会をはじめとする、さまざまなイベントの告知と集客だ。オンラインでのイベントだけでなく、オフラインでのイベントを催し、そこに多くの参加者を送り込むという使い方だ。オンラインからオフライン、すなわち現実の集会への誘致を行っていることが、最新のソーシャルメディア群、特にFacebook の活用方法としてとりわけ注目されるポイントだ。最近では、オンラインからオフラインへのユーザーおよびそのトラフィックの移動を図ることを、特にO2O(オンライン・トゥー・オフライン)と呼んでいる。

ジャスミン革命においては、実はFacebook だけではなく、ブログやTwitter、YouTube やUstream、WikiLeaks など、実に多くのソーシャルメディアが活用されたが、それらの中心としてFacebook が取り上げられているのは、Facebook が実名制によるソーシャルネットワークであり、同時に完全会員制のクローズドなメディアであるということが大きい。

ジャスミン革命は言うまでもなく反政府活動であり、自分たちの意図するところが政府関係者や警察当局に知られることは避けねばならない。同時に、デモを行うならできるだけ多くの賛同者に日時や場所を伝えたい。実名による会員登録を徹底しつつも、国家規模のユーザー数を持つFacebook だからこそ、この役割を担えたのだ。

また、チュニジアにしてもエジプトにしても、デモに参加したすべての民衆がFacebook ユーザーであったわけではないし、それどころかインターネットを利用できる環境に必ずしもいたわけではない。

比較的裕福であったり学歴の高い賛同者たちが各地に点在し、ソーシャルメディアを介してつながっていた。その彼らがオフラインの活動を通じて、ネット上のクチコミを電話や口頭でさらに広く伝えていった、ということだろう。逆に言えば、今後さらにソーシャルメディアの利用者が拡大していくことを考えれば、ジャスミン革命は一過性ではなく、徐々に効率化が進み、国境をまたいで世界全体をソーシャル化していく巨大な潮流であると言えるかもしれない。

 

Facebook ─絶対実名主義という教条

 

ところで、Facebook の特徴を簡単に述べると、以下のようになる。

● 実名で登録し、実際の身分や肩書きを公開するのが普通

● タイトルのない、Twitter に似たやり方で日々の気分を投稿

● 投稿ボタンはTwitter のツイートに対してFacebook ではシェア、という

● いいね!(Like)ボタンと呼ばれるボタンをクリックすることで投稿内容や他の会員に対して好意を持ったことをコメントなしで表明できる

● 元々大学生向けのSNSなので20代の利用が多い

● 世界中で会員が増殖中

Facebook はいまや世界最大のSNSだ。世界全体での会員数が2011年3月時点で約6億人。その巨大さは、俗に「中国、インド、Facebook」と数えられるくらいであるように、国家に換算すれば世界第3位の規模だ。サービスそのものは一見mixi と似ている。画面や情報の見せ方はむしろTwitter に似ているが、会員同士の非公開型コミュニティであることや、写真や動画などのリッチなコンテンツをアップロードできるところは、mixi と同じだ。また、相手の認がないと友達関係になれないという双方の合意による関係性も同じである。

ではなにが違うのかというと、それはFacebook が完全に実名での登録を絶対条件とし、架空の名称や、アバターのようにネット上だけに通用するような人格の存在を厳格に許さない、という点だ。実際、実在しなさそうな名前での登録は(実はそれが本名であっても)させないような仕様になっているし、顔写真を掲載していないユーザーの利用を一時中断させるようなこともしている。それほどの徹底ぶりをもって、実名主義を貫いているのがFacebook の最大の特徴であり、彼らのサービスの方向性を決定づけている。もちろん細かな機能や仕様の違いは数多くあるが、Facebook は実名による会員制サイトであり、mixi はニックネームを主体とした匿名性の強いサイトであることが最大の相違なのだ。これを小さな違いのように思うのは間違っている。自分とつながっている相手が間違いなく実在の人物であり、なりすましもごまかしもない、というリアルさが担保されているFacebook だからこそ、 ジャスミン革命における二つとない重要なツールとして活用された。実名と匿名の間に横たわる溝は、実は非常に大きいのだ。

要は、Facebook は、リアル社会での我々の人間関係を、ネット上にそのまま置き換えようとしている。Facebook 以前のソーシャルネットワークでは、リアル社会での我々がどういう人格であっても関係なく、ネット上の(もう一つの)人格を持つことが許されていたが、Facebook はそれを許さない。リアルとネットの人格は一致するべき、というのが彼らのサービスを支える原理原則なのだ。

オバマから始まった政治の世界のソーシャル化

 

逆に言えば、Facebook が実名主義を愚直にまで貫き通しているからこそ、政治的なプラットフォームとしての価値が成立しているとも言える。誰だか分からない架空の人格ではなく、間違いなく社会的な立場を証明できる実在のユーザーとの接点を持つことができるからだ。例えばそれが有権者であったなら?

米国史上初の黒人大統領となったバラク・オバマ大統領は、米国大統領選挙戦の歴史上初めて、本格的にソーシャルメディアを活用し、成果を出した政治家だ。オバマ陣営では主にインターネットを活用するニューメディアチームに80人以上のスタッフを抱えていたらしい。それらスタッフの陣頭指揮を執っていたのはFacebook 共同創業者の一人、クリス・ヒューズだった。彼らはFacebook を中心に、有権者との相互的なコミュニケーションをキャンペーンの軸としてとらえた。

僕はチュニジアに始まったジャスミン革命の発端は、このオバマ陣営の選挙戦の成功にある、と考えている。ジャスミン革命において、ソーシャルメディアは主に二つの機能をプラットフォームとして提供した、と述べた。一つはクチコミを発生させ、拡散させ、醸成していくという役目である。もう一つの機能は、デモをはじめとするイベントの告知と集客だ。オバマ陣営においては、さらに直接的な資金調達(この場合は献金)という機能が効率的に採用されており、後述するが非常に大きな成果を生み出した。

米国大統領選挙は、世界最大の政治ショーであると同時に、最高峰のマーケティング戦争だ。そこで有効とされた戦略はあらゆる業界に採用される。例えば、ケネディ時代にはテレビが勝敗を決し、ジョージ・ブッシュ時代にはメールやWebサイトが新しいマーケティングツールとして多用された。オバマ陣営が、黒人候補という不利や、ヒラリー・クリントンらに比べると低い知名度を逆手に取って、短期間に自らをナショナルブランド化できたのは、ソーシャルメディアによるところが大きい。彼の選挙戦は世界初の本格的かつ最高の成果を収めたソーシャルメディアマーケティングであり、そのやり方やノウハウが、ジャスミン革命においても共通的な特徴としてみられる。

オバマ陣営は選挙戦が始まった当初から独自のSNS(my.barackobama.com = MyBO)を立ち上げて、クレジットカードでのオンライン献金を可能にしたが、同時にFacebook をはじめとしてMySpace やTwitter、ブログといったさまざまなソーシャルメディアを活用したし、YouTube やUstream などの動画共有サイトも多用した。彼らはMyBO を中心に、ソーシャルメディアを使ってオフラインの20万回以上のイベントを主催した。オバマという名前はイスラムを想起させやすいという政治的弱点があり、さらに黒人という出自が、彼の大統領候補者としての圧倒的不利を生んでいたが、こうした草の根運動による緻密で連続的なブランディングによってネガティブな印象を消すことに成功したのは素晴らしい。

さらに2年間で300万人の草の根的な支持者たちから実に7億5000万ドルもの献金を集めることに成功している。そのうち実に5億ドルがオンラインでめられた献金だ。同時期のライバルであるマケイン候補がネット経由で勝ち得た献金額は10分の1の5000万ドルであることを考えれば、その凄さが理解できるはずだ。ともあれ、オバマ陣営の選挙戦のやり方は、さまざまな分野での高度なソーシャルメディアの活用の類型を生みつつある。国際政治にあってはジャスミン革命のような形になり、そしていま企業活動、特にマーケティングにおける優れた類型を直に生み出せるところまで、その影響は広がっている。

 

Facebook と他のソーシャルメディアとの相違と関連性

 

Twitter は社会的な事件や大事故などの発生とともにクチコミ元として会員数を増やしてきたことでもよく知られている。 米国のハドソン川に飛行機が不時着した際に、災害を世界に伝える写真の最初の1枚が公開されたのは、iPhone によって撮影されアップロードされたTwitter 経由のものだった。

実際、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震にあっても、多くの情報がTwitter 経由で伝達された。マグニチュード9・0という、世界でも最大級(過去計測された地震では世界第4位の規模とされる)の地震は、日本国内では少なくとも過去400年間に起きた震災の中でもっとも大きいという。都内でも、携帯電話はほとんどつながらなくなり、電力不足によって交通手段にも大きな麻痺が起きた。高層マンションにあっては電気が止まれば水道も使えない場合が多く、直接的な被害が少ない東京であってさえ、とにかく数週間から数カ月にわたって、さまざまな不都合や不自由に直面することになる。天災とはまことに恐ろしい。

Twitter はよく落ちることでも有名(?)だが、チュニジアやエジプトの革命をはじめ、最近では世界の注目を集める大きな事変が数多く発生しており、それらの状況をリアルタイムで伝える命綱としての自覚が彼らにはあるのだろう。今回の震災でも落ちることなく我々の情報源としての役割を果たし抜いた。また、動画のライブ中継サイトであるUstream も、東北地方太平洋沖地震の様子を具体的に伝えるツールとして、日本国内でもTwitter とともに成長を続けている。

世界的に見ると、Ustream はチュニジアやエジプトの民主化運動が全国に広まっていく模様を伝達する最良の手段として巧みに活用されており、2011年に入っても順調な成長を続けていた。僕は自著でYouTube が動画版ブログならば、Ustream は動画版Twitter であると表現している。データのアーカイブ(蓄積)ではなく、ストリーム(流れ)のツールであるという点が、Twitter とUstream に共通する大きな特徴だ。Twitter が事故や災害、政変などの世界的なニュースが発生するたびにデジタル瓦版として成長してきたように、そして、そのもっとも有効なガジェットとしてのスマートフォンの普及が成長を後押ししてきたように、Ustream も同じ道をたどっている。

Twitter とUstream の成長は、実際にはあらゆるソーシャルメディアの役割を明確化し、全体を刺激していることが興味深い。ブログは人々の想いや主義主張をコンパクトにまとめて記録に残す最良のメディアだ。また、数多くの動画コンテンツは最終的にYouTube にアーカイブされ、Google の手によってたやすく検索されるように整理されていく。そして、実名で多くの人をつなぐFacebook がそれらのコンテンツの共有と再利用を促している。事件発生時に威力を発揮するのはTwitter とUstream だが、伝達された情報のさらなるネットワーク化や検証へとつないでいくのは、それ以外のソーシャルメディアたちであり、特にFacebook がその中心である。

ソーシャルメディアは単独で用いられるのではなく、おおまかな役割の相違があることによって、全体が大きなネットワークとして機能するようになる。僕たちはこの状態をソーシャルストリームと呼んでいる。データが複雑な海流のごとく、複数のソーシャルメディア間を流れていく様子を表現した言葉だ。Twitter やUstream だけでは、データは津波のように我々を飲み込んだあとに消えていくが、Facebook やYouTube、ブログなどがデータの有効利用をうまく担う。

今後、ソーシャルメディアの有効活用をマーケティング視点で語るうえで、このソーシャルメディアミックスの配分をどう考えるかが要諦になるだろうと思われる。どのようにするかで、データの伝搬のさせ方が決まってくるからだ。

 

ソーシャルメディアをマーケティングに活用する

 

僕たちオガワカズヒロは『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)というマーケティング解説書を書いているが、2010年2月に出版したこの本の中では、実はFacebookについてはほとんど触れていない。当時は、ソーシャルメディアマーケティングの主役はTwitter であり、Twitter とブログ、YouTube、Ustream などをいかに組み合わせて、購読者を増やし、コミュニケーションをとっていくかが焦点だったからだ。

しかし、米国においては2010年当時から一貫してソーシャルメディアマーケティングとはイコール Facebook マーケティングだ。先述のように、2008年の大統領選挙でオバマ選挙対策チームに主に活用されたのはFacebook であり、MySpace であり、リンクトイン(http://www.linkedin.com。ビジネスパーソン用のSNS)だった。Twitter は、選挙対策チームのスタッフの一人であり『「オバマ」のつくり方』(阪急コミュニケーションズ)の著者であるラハフ・ハーフーシュに言わせれば、もっとも使いづらかったツールであるらしい。

しかし、日本においては、2010年当時は、mixi もGREE もモバゲーもオープン性に欠けるうえ、あくまで消費者向けサービスのスタンスであったため、マーケティング利用の主役ではなく、中小企業やベンチャーには主にTwitter を中心としつつ、ブログや、Ustream などの動画共有サイトを併用することを提案せざるを得なかった。広告予算が潤沢にある大企業であれば、マスメディアをうまく活用して、その効果を最大限に活かすためにTwitter を使うことを勧めたし、余裕があれば、やはりブログやUstream など、複数のソーシャルメディアとの連携、つまりソーシャルメディアミックス(複数のソーシャルメディアを組み合わせ、使い分けてアテンション獲得力の弱さを補うこと。僕の造語)を行うことを進言してきた。

それが、2011年に入り、Facebook が本格的に日本国内でも普及の兆しを見せてきたことによって、もろもろ事情が変わり始めた。さまざまな企業もソーシャルメディアマーケティングのツールの真打ちとしてFacebook に大きな期待を寄せている。米国では先進的に既に多く見られる、さまざまなソーシャルメディアミックスを日本国内でも実行できる可能性が強くなってきたと言える。

ちなみに、ジャスミン革命の事例を見るまでもなく、Facebook は、Twitter はもちろん、ブログや動画サイト、画像サイトなどの情報をうまく吸収し、統合する力がある。新聞やテレビなどのマスメディアを使う予算を持たない企業や個人であっても、いまFacebook に取り組むことで新奇性を持つことができるから、さまざまな人々の注目(アテンション)を集めることが可能になってきた。

逆に言えば、Facebook だけ使っていてもそれほどの意味はない、ということに他ならない。

Facebook をマーケティングに使うということは、イコール Facebook ページといわれる、会員以外も閲覧できる公開型ホームページを構築することから始まるが、そのFacebook ページに人を集める(ファンを集める)ためにも、他のメディアとの連携が絶対に必要だ。ブログやTwitter などとの連携がなければ、その効果を十分に発揮させることができないのである。