アンドロイドOS はアップル帝国の牙城を崩せるか?

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三浦一紀

これまで、スマートフォン市場に対する動きの見えなかったauが、アンドロイド携帯で参入を開始。アップル勢との本格的な市場競争がいよいよ火ぶたを切った。

i P a d は誰にでも使えるのがポイント

2010年5月28日、アップルのタブレット型端末「iPad」が発売された。筆者は神様のいたずらにより、日本での購入者第1号となり、孫正義社長、藤井リナさんとの3ショットで、各メディアに露出されることとなった。

特にインターネットニュースではかなり取り上げられていたので、読者の中には目にした人もいるのではないだろうか?

iPadは、アップル初のタブレット型端末ということでたいへん注目された。

すでに、世界中で400万台以上販売されており、アップルの売上高および利益の大幅アップの要因となっている。

このiPad、9・7インチの大型液晶ディスプレイにiPhoneと同じOS「iOS」を採用。使い勝手はほぼiPhoneと同じで、パソコンやモバイルデバイスに詳しくない人でも簡単に使えるようになっている。

事実、筆者がiPadを購入後、小学4年生と2年生の子どもに渡したところ、いきなりゲームを起動しプレイしていた。筆者の周りでは高齢の両親のために購入したという人も結構多い。

つまり、iPhoneよりも画面が大きくなっていることと、画面を直接タッチして操作するという操作体系が、キーボードなどを使ったことがない層のユーザーとの親和性を高めているのだ。発売当初は品薄状態が続き、なかなか手に入らなかったが、現在はソフトバンクモバイルの各ショップ、アップルストア各店舗、家電量販店などでも購入できるようになり、いまだに好調な売れ行きという。実際、電車の中やカフェなどで、iPadを使っている人を見かけるようになった。外国人などは、歩きながらiPadを使っていたりして、筆者は「グッジョブ!」と心の中でサムアップしたりしていたものだ。

アップルの最大のライバルアンドロイドはOSのみの提供2010年6月には、iPhone4も発売され、こちらも売れ行きが好調。

白モデルの発売が延期になるなどのトラブルがあり、発売当初は予約した人ですら手に入れるのが難しい状況であった。それでも人気は衰えることなく、現在も順調に売り上げを伸ばしている。

まさに、日本のスマートフォン界の頂点に君臨しているといってもいいだろう。

一方、iPhone、iPadのライバルと言われているのがアンドロイドだ。これは、グーグルが開発する汎用OSの名称。グーグルの検索エンジン、メールサービスなどをメインに、各種端末で使えるOSだ。

スマートフォンの世界では、iPhoneの最大のライバルとして立ちはだかっている。iPhoneと違い、グーグルはOSだけを提供。ハードウェアに関しては各メーカーが独自に開発し、そのハードウェアにアンドロイドOSを搭載して販売している。

そのため、米国ではアンドロイドOSを搭載したスマートフォンが多数発売されており、販売台数ではiPhoneよりも多いというのが実情だ。

しかし日本では、iPhone人気は安定したものがある。最近ではNTTドコモやauからも、アンドロイドOSが搭載されたスマートフォンが続々登場。それなりに人気を集めてはいるもののiPhoneほどの人気機種は登場していない。最近ではiPadに対抗し、大型の液晶ディスプレイを搭載し、画面をタッチして操作できる、アンドロイドOS搭載のタブレット型端末も登場し注目を集めているが、iPadほどは人気爆発というわけにはいかないようだ。いったい、アップルの提供するiPhone、iPadと、アンドロイドOS搭載機種では、何が違うのだろうか?

アップルにあってアンドロイドにないものは「統一感」

最大の違いは、ハードウェアとソフトウェアの統一感ではないだろうか。

アップルの場合、iPhone、iPadというハードウェアと、その中身であるOSを1社で提供している。これにより、ハードウェアとOSには一定の統一感が生まれる。iPhone、iPadを見てみると、本体前面にはボタンが1つだけ。ほとんどの操作は画面上をタッチして行うようになっている。

iPhoneはすでに4代目(日本では3代目)となっているが、この部分に関してはまったく変わっていない。

またOSの画面構成も、画面上に4×4の16個のアイコンが整然と並ぶ。

アイコンの配置順は自由に入れ替えることができるが、格子状に並ぶというルールは変えられない。

一方アンドロイドOSの場合は、ハードウェアメーカーによってボタンのデザインや配置、数が異なる。また、OSも各メーカーのハードウェアに合わせてカスタマイズが加えられており、同じOSながらも画面デザインは異なる。

加えて、画面上にはよく使う機能などのアイコンを自由に配置できるほか、全メニューが一覧できるよう、画面下(または上)からニュルニュルッとメニューが表示されるようになっている。

一見すると、自由度が高いアンドロイドOSのほうがよさそうに感じるが、実際に使ってみると、どう考えてもアップルの機器のほうが使い勝手がよいのだ。特に、iPhoneとアンドロイドOS搭載のスマートフォンを同時に使うと、その思いが強くなる。

この原因はなんなのだろうか?

それは、スマートフォンが「制約された機器」であることと関係している。

 

複雑な動作をさせないことがi P h o n e の強み

ここではまず、iPhoneを含めたスマートフォンについて論じていこう。

スマートフォンは、根本的には「携帯電話」である。そのため、本体の大きさには自然と制約が生じる。そして携帯電話であるため、使う人がパソコンを操作できるユーザーばかりではない。ここがポイントだ。

iPhoneは、手のひらサイズであることを意識し、できるだけユーザーに複雑な操作をさせないように設計されている。格子状に並ぶアイコンも、ほとんどが画面上をタッチするだけで操作できる感覚も、ユーザーに操作に関する迷いを抱かせない。また、歴代のiPhoneは基本的に操作性や機能は統一されているため、仮に何かわからないことが生じても、近くにいるiPhoneユーザーに尋ねればたいていのことは解決してしまう。

アンドロイド搭載のスマートフォンはそうはいかない。同じアンドロイドOS搭載でありながら、ハードウェア、OSのインターフェイスともにバラバラ。

また、ひとつの目的のために操作体系が複数存在するのも、この手の機器としてはあまり歓迎されない。たとえば、メールアプリを起動しようとした場合、

画面上にあるアイコンをタッチする以外にも、普段は隠れているメニュー画面から起動するという方法も存在する。加えて、機種ごとにボタン配置もOSのインターフェイスも異なるため、同じアンドロイドOS搭載のスマートフォンを持っているユーザーに操作について尋ねたとしても、必ずしも解決できるとは限らないのだ。

逆にいえば、アンドロイドOSは自由度が高いため、ユーザーが好きなようにカスタマイズして使えるのがメリットともいえる。しかし、そのような使い方を希望するのはかなりのヘビーユーザーだけではないだろうか。一般のユーザーは、携帯電話は手軽に使いたいと思っているはず。そのあたりをアップルはきちんと理解しているといえるだろう。単純にアップルというブランド力だけでiPhoneが売れているというわけではないのだ。

アプリのダウンロードに見る両陣営の思想の違いもうひとつ、iPhoneが人気の理由に、多彩なアプリをダウンロードして楽しめるということが挙げられる。テレビCMでも、ゲームや実用系のアプリを多数画面に登場させて、無限の楽しみ方を提供しているという印象を与えている。

2010年8月末現在、iPhone、iPad向けのアプリをダウンロードできる「App Store」には、25万本のアプリが登録されている。

しかし、アプリに関してはアンドロイドも「Android Market」が存在する。こちらは2010年8月末で12万本のアプリが登録されている。数だけ見れば2倍の差があるが、どちらもアプリの数に関しては必要十分といえるのではないだろうか。

だが、このアプリに関しても両者の違いが浮き彫りとなっている。

アップルは、アプリの開発者がApp Storeに登録する際に、あらかじめ審査を行う。そのため、AppStoreに登録されているアプリは、ある程度の信頼性があるといえる。

アンドロイドのAndroid Market は、App Storeとは真逆。アプリ開発者は、自由にAndroid Market へ作成したアプリをアップロードして公開が可能。その際、グーグル側のチェックはない。そのため、かなりくだらないアプリも多い。なかには、機器が動作不良になってしまうといったアプリもある。そのようなアプリは、通報を受けたあとに削除などの処理を行うシステムになっている。

なお、Android Market は、有料アプリであってもダウンロード後24時間以内であれば、キャンセルすることができる。アップルは有料アプリの場合は、ダウンロードの際に自動的に課金されてしまうことを考えると、24時間キャンセルシステムは親切といえば親切だが、なんとなく言い訳のようなシステムにも見える。

この2つのシステムを比べてみても、やはり思想の違いは明らか。アップルは、アプリ開発者をコンテンツの「供給側」としてきちんと管理しようという意図が見えるが、グーグルはアプリ開発者を「ユーザー側」と認識し、あくまでも場所を提供するというスタンスといえる。どちらが端末を使用するユーザーに優しいかは、一目瞭然と言えるだろう。

アンドロイドはタブレット型端末で魅力を発揮

ここで、話をタブレット型端末に移してみよう。iPadが大人気となった要因は、iPhoneと同じ操作体系をもちつつ、画面が9・7インチと大型で、画面をタッチしての操作感が親しみやすいということは冒頭で述べたとおりだ。しかし、その反面意外と重く、立ちながら手で持って操作するのが辛いと感じることも。最近巷でよく聞くのが「7インチ版のiPadが出れば…」という声だ。

アップルの思想としては、9・7インチという大画面が、iPhoneとは違うユーザー体験を与えるということなのだろう。確かにそれはそのとおりだ。だが、iPadには現在画面サイズは1種類しかない。店頭でiPadを見て、その大きさに購入を控える人もいる。

そこでアンドロイドだ。アンドロイドは、ハードウェアは各メーカーが開発・製造を行うため、同じアンドロイド搭載タブレット型端末でも、さまざまなバリエーションのものが存在する。先日NTTドコモが販売を開始した、「GALAXY Tab」は、7インチのTFT液晶を搭載し、片手でも持てるように配慮されている。また、iPadでは3G回線でも音声通話はできないが、GALAXY Tabは音声通話をサポートしている点もおもしろい。

つまり、iPadでは実現されていない「7インチの液晶をもつタブレット型スマートフォン」という製品が、アンドロイドOSを使えば作れてしまう

ということが、アンドロイドのおもしろいところなのだ。iPadの場合は、アップルが(もっといえばスティーブ・ジョブズが)「7インチのiPadなんて必要ない」といえば、当面製品化されることはない。

しかし、アンドロイドならばハードウェアのメーカーがそのような端末を作

ろうと思えば、製品になってしまうという自由さがある。

スマートフォンと違い、タブレット型端末は、画面が大きい分、OSのインターフェイスはパソコン的であるほうが使い勝手がよいと感じる。その点においても、OSのインターフェイスをハードウェアに合わせて作り込めるアンドロイドのほうが、タブレット型端末には向いているのではないだろうか。

実際に、アンドロイドOSを搭載した端末は海外ではかなりの数が発売されている。なかには、電子書籍リーダーの「Kindle」のようなモノクロの液晶と、スマートフォンサイズのカラー液晶を搭載し、それぞれに別々のアプリの画面を表示させることができる端末もあるなど、かなり独創性の高い製品もある。

このような、ハードウェアの多様さが求められるジャンルでは、アンドロイド陣営の無限の可能性が活かされるはずだ。

タブレット型端末こそ両者の対決が楽しめる

ただし、この分野でiPadに可能性がないかというと、そんなことはない。

iPadに搭載されているOSは、まだ古いバージョンの「iOS3」だ。これが、iPhoneと同じ「iOS4」にバージョンアップされれば、マルチタスク対応に加え、アプリケーションをフォルダで分類することができるようになる。これにより、iPhone4と同等の使いやすさとなることだろう。

個人的にはマルチウィンドウ(1画面に複数のアプリの画面が表示される機能)が搭載されると、さらに使い勝手が向上するのではと期待している。

スマートフォンにおいては、デザイン、使い勝手、人気とあらゆる点において、iPhoneが突出している感がある。いくらソフトバンクモバイルの回線が弱く、

電波が入りづらいと文句を言ってみても、iPhoneの代わりは存在しないため、

使い続けてしまう。実際、iPhoneを一度手にしてしまうと、もう普通の携帯電話には戻れないと感じる。それだけ、スマートフォンとして完成されているといってもいいだろう。

一方タブレット型端末においては、iPadの人気は高いが、実は決定的な製品ではない。乱暴に言えば「iPhoneを大きくしたもの」でしかない。アンドロイドがタブレット型端末で決定的なモデルをリリースすることができれば、スマートフォンはアップル、タブレット型端末はアンドロイド、という棲み分けになるかもしれない。

ただし、アップルがそう簡単にアンドロイドにタブレット型端末の分野で主導権を握らせるようなことはないだろう。今後、アップルとアンドロイドのせめぎ合いがどうなるのか、要注目だ。