激化するポイントサービス競争

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ポイントビジネスの現状と注目のサービス

杉本古関

着実にポイントビジネスが拡大している日本。家電量販店のポイントカードをはじめ、電子マネーでの決済など、さまざまなかたちでポイントが付与される。そんなポイントビジネスの現状について、ポイントサービスの情報をまとめた「ポイ探」を運営する株式会社ポイ探、代表取締役の佐藤温氏に話を聞いた。

ポイントサービスの多様化

世界的にも珍しいポイント大国の日本。ここまで事細かにポイント方式の還元サービスが充実している国は、ほかにあるのだろうか。

その昔、グリーンスタンプやブルーチップなどの共通スタンプサービスから始まり、1989年にはヨドバシカメラが「ポイントカード」を開始。今では、多くの店舗や業種で導入されている。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営するTポイントに代表されるように、企業や業種を超えて同じポイントを集めることができるのも、近年の特徴といえるのではないだろうか。

「ゴールドポイントカード」の表面には、「ポイントカードは、ヨドバシカメラが初めに考案したシステムです」と記載されているのを、見た人も多いだろう。それ以前は、カードにスタンプを押したり、シールを貼ったりするのが主流だったこともあり、バーコードでデータ管理するカードの発行は画期的だったようだ。

そのおかげで、チェーン店のどの店舗でも同じポイントカードを使うことができるようになった。20年以上経過した今、家電量販店ではもちろんのこと、コンビニエンスストアやスーパー、飲食店など、さまざまな業種でポイントサービスが浸透しているのは、このシステムがきっかけである。

ポイントサービスを簡単に分類すると、商品・サービスの購入額に応じたもの、電子マネーの利用額に応じたもの、クレジットカードの利用額に応じたものの3種類とすることができる。

商品・サービスの購入額に応じたものは、特定の店舗や特定の企業でのみ利用できるケースが多いものの、前述したCCCのTポイントのように複数の業種で利用できる大規模なサービスもある。

電子マネーの場合は、Edyなら「Edyでポイント」、Suicaなら「Suicaポイント」、nanacoなら「nanacoポイント」と、電子マネーによって諸条件があるものの、ほぼすべての電子マネーで何かしらのポイントサービスが付与されるようになっている。

さらに、クレジットカードのポイントサービスも同様だ。支払い額に応じて、ポイントが付く。

クレジットカードのポイントの場合、商品やギフトカードと引き換えるケースが主流ともいえるが、商品・サービスの購入や電子マネーの利用で付与するポイントは、概ね買い物の時に割引になるなど、現金の代わりとして利用することが可能だ。

ポイント付与率は発行されるポイントカードによるが、だいたい0 ・3〜20%ぐらいとなっている。

たとえば、Edyの「Edyでポイント」では、Tポイントを選ぶと200円につき1ポイントが加算される。ヨドバシカメラなどの量販店では、だいたい7〜20%と商品によって異なるが、利率としては10%が一番多いだろう。nanacoでは、セブンイレブンで買い物をすると100円で1ポイントが加算される。Tポイントでも、ファミリーマートで買い物をすると100円につき1ポイントで、さらにレシート1枚につき来店ポイント1ポイントが加算される。

ポイント業界全体の動きはどうなのか、ポイ探の佐藤氏の話はこうだ。

「クレジットカードのポイント付与率は、全体的に下がってきています。クレジットカード会社の収益は、加盟店の手数料とキャッシングの利息で、その利益を前提にポイントを設定していました。そのため、カードの発行をとにかく増やすという方向だったと思います。

ところが、金利も上げることができなくなり、収益が悪化している会社が多くなっています。その結果、提携カードを減らしたり、発行枚数を制限したりするようになってきました。以前なら、百貨店やスーパーで提携のクレジットカードの勧誘を積極的に行っていたと思いますが、今はかなり減ってきています。

また、ボーナスポイントに関してもいろいろ用意されていたと思うのですが、それも付かなくなっていますね。Suicaなどへのチャージでポイントを付けるクレジットカードも減ってきています。JALカードや三菱UFJニコスカードも、SuicaやEdyへのチャージではポイントが付か

なくなってきています。

また、以前ならクレジットカードの加盟店手数料が5%ぐらいはあったかもしれません。今は3%ぐらいになっているかと思います。

やはり、これらの原因としては、貸金法や割賦販売法の改正が大きいと思います。貸し付けの総量規制がはじまるのも、クレジットカード会社にとっては痛手です。年収を把握し、貸し出す金額が規制されますし、収入がない主婦などには貸し出すことができなくなってきています。

さまざまな締めつけもあって、結果的にクレジットカード利用に対してのポイント付与は厳しくなっています」

 

ポイントサービスのケータイアプリ化

ポイントカードのケータイアプリ化も着実に進み、カードレスでポイントを貯めることができるメリットがユーザーに浸透している。nanaco、Tポイント、WAON、ヨドバシゴールドポイントカード、ビックカメラ、Edyなど、多くのポイントサービスでケータイアプリが公開されている。

「ヤマダ電機は、Webページにアクセスするタイプです。ケータイでも、ブラウザのブックマークからアクセスし、画面にバーコードを表示します。使い勝手の面では、ケータイアプリのほうが便利かもしれません。Webページにアクセスするというシンプルなシステムなので、FeliCa を搭載していないiPhone アプリもいち早く登場しています」と佐藤氏は言う。

たしかに、原稿執筆時点(2010年5月)で、量販店を含めたポイントカードでiPhone アプリはヤマダ電機だけのようだ。iPhone は、日本で累計200万台とも300万台ともいわれている(国別の販売台数の公式発表はない)。一つの大きなデバイスとして認知されていることもあ

り、今後、さまざまなポイントサービスがiPhone アプリに対応してくるかもしれない。

ユーザーメリットをめぐって

ユーザーがポイントを貯めるためには、できるだけ集めたいポイントの種類を絞り込んだほうがいいのはいうまでもない。多数のポイントを、少しずつ集めても利点が少ないためだ。

では、集めるポイントを決めるために、ユーザーは何をす

るかといえば、各々の行動線を把握する。

たとえば、コンビニエンスストアは必ず家の近くのセブンイレブンに行くというユーザーは、nanacoを選択する。マイルを貯めたいユーザーは、JALやANAのカードを所有するわけだ。

電子マネーをよく使うユーザーなら、クレジットカードでチャージしたときにポイントが付くカードに乗り換えるという場合も多い。クレジットカードから電子マネーへチャージしたときのポイントの付与率の違いで、ユーザーは収集するポイントを決めるというわけだ。

ポイントビジネスを展開する側としては、ユーザーの日常の動きに従ってサービスを提供するのが理想といえるが、なかなか難しいのが現状かもしれない。

最近、注目しているポイントサービスについて佐藤氏は、「Suicaでは、Suicaポイントが付くのはビュー・スイカカードやモバイルSuicaなどに限定されていたのが、2010年の春から記名式のSuicaでも、ポイントが付くようになりましたね。これで、ポイントが付く人も増えたでしょう。Suicaは、毎年春にいろいろと機能が追加されているが、2010年でやっとここまできたという感じですね。

どんなクレジットカードや電子マネーを使うかは、最終的にどのポイントを貯めたいのか、ということによると思います。全体としては、突出してお得になるという組み合わせはなくなってきているのが現状といえるのではないでしょうか」とのことだ。

 

地域との共存を図り、オープン化が進むWAON

日常の買い物のなかで、ユーザーが比較的ポイントを貯めやすいのは、やはり電子マネーだろうか。基本的に電子マネーは少額決済が基本なので、それほど高いポイントを稼ぐのは難しい。佐藤氏は電子マネーについて、こう話す。

「WAONが利用件数やユーザー数を伸ばしています。決済金額がほかの電子マネーより高めなのが特徴です。やはり、イオンのスーパーで利用するケースが多いのかもしれません。

nanacoの場合は、セブン│イレブンやデニーズ、そしてイトーヨーカドーの食品売り場で(2010年6月より衣料品、住まいの品の売場でも)利用できますが、WAONの場合は、基本的にイオンのテナントを含めた全部の店舗で利用できます。また、吉野家やファミリーマートでも利用できるようになり、オープン化が進んでいるようです。

さらに注目すべき点は、地域の商店街と組んで、利用できるようにしていますね。地域通貨的な扱いを狙っているといえます。

nanacoの場合、ポイントが付くのはセブンイレブングループだけですが、WAONの場合は、どこで買っても200円で1ポイント付きます。すべてのお店でポイントを付けるようにするのがWAONの戦略で、それが人気の要因といえます」

09年12月には、NTT東日本が、フレッツ光メンバーズクラブでポイントプログラムを開始。OCNのポイントサービスとは別に付与されるポイントで、入会特典として2100ポイントがもらえるというサービス。無料登録をするだけでサービスがスタートする。

2010年春には、日本生命でもポイントサービス「サンクスマイル」がスタート。これは、長期契約で継続していくとマイルが貯まるというものだ。

コンビニエンスストアやスーパーなど、小売店が中心だったポイントサービスを実施する業界は、着実に広がっている。

逆に、ポイントサービスから撤退する企業としては、09年では、みずほ銀行がサービスを停止。また、千葉銀行もサービスを止めるとのことだ。

クレジットカード会社のように収益が悪かったり、銀行のようにうまくいかなかったりするケースもあるが、基本的には、今後もポイントサービスは増えていくだろう。さらなるポイントサービス競争の激化が予想される。