無料携帯ゲームのコロプラにラブコールが殺到する理由

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喜多充成

2008 年10 月の法人化から、わずか18 カ月で100 万ユーザーを突破。地域の名店との提携や、鉄道、航空、レンタカー、旅行会社などとの共同プロジェクトを次々と打ち出し、各方面から熱い視線を浴びているコロプラ。ゲームと同名の運営会社を訪ね、同社副社長の千葉功太郎氏に聞いた。

育成ゲームという本流の系譜

一世を風靡した携帯ゲーム「たまごっち」。常にゲーム機を持ち歩いてヒナを世話しなければならないが、それでもうまく育ったり育たなかったりがまたハマる……。さかのぼれば都市計画シミュレーションゲームの「シムシティ」や、水槽で熱帯魚を飼う「アクアゾーン」など「育成ゲーム」と呼ばれるジャンルは、シューティングやRPGなどとともに、ゲームコンテンツのメインストリームを構成している。

一人に一つだけ与えられる箱庭のような街「コロニー」を大事に育てあげるというシナリオの「コロプラ」も、その系譜に連なるまさに育成ゲームの保守本流といえる存在だろう。

新たにゲーム機を購入する必要はなく、自分がいつも使っている携帯電話端末で遊ぶことができ、しかもパケット通信料金のみ(パケット定額なら事実上追加コストなし)で遊べる無料ゲームである点が、多くのユーザーに支持されている理由の一つ。だが無料ゲームや育成ゲームならほかにもあまたある。「コロプラ」が人気を集める理由は、無料だ育成だというカテゴリーの枠を踏み越えた部分にあった。

具体的には「位置通知機能」という、携帯電話が新たに備えた技術と機能を、ゲームの面白さと不可分に結びつけ、新たな価値を与えている点にある。

「実は『位置ゲー』という言葉も当社が商標登録申請をしています」と言うのは、株式会社コロプラの副社長である千葉功太郎氏。千葉氏に、まずこの

ゲームの生い立ちを聞いた。

「2003年5月、当社社長でゲームマネージャー(GM)の馬場功淳が、PHSの新サービスであるAir H˝ 向けに始めたものです。馬場は当時、九州工業大学の大学院生。個人でサーバーを立ち上げてスタートさせたものなんです」

KDDI傘下にあったPHSキャリアのDDIポケット(当時。後に英国の投資ファンド・カーライルグループに売却されウィルコムとなる)は、携帯電話に対抗するため、PHSの新技術導入に意欲的に取り組んでいた。

 

「位置通知+パケット定額」を活かすアイデア

携帯に比べ移動中の通話が途切れやすいPHSの弱点を補おうと導入されたのがAir H˝ と呼ばれる新サービス。

対応するPHS端末は、もっとも電波状況の良い基地局を選び、切り替えながら通信することができた。そのためにPHS端末は複数の基地局の電波を同時に受信する機能を備えることになった。

この「複数の基地局との通信」という機能と、「携帯電話の基地局よりも高密度に配置されたPHS基地局」というネットワークの特徴を重ね合わせると、端末の位置を精度良く推定することができるという新機能が生まれ、端末に実装された。

さらにこの「位置通知機能」と、同時期にスタートした「パケット定額」の料金体系という、Air H˝ の2つの特徴を活かすものとして馬場氏が考案したのが「コロニナ」(コロニーな生活)というゲームだった。

「ユーザーの頭の上にコロニーが浮かんでおり、ユーザーの移動につれ仮想世界のコロニーもいっしょに移動する。移動距離に応じて仮想通貨(1㎞につき1プラ)が貯まり、そのお金で街を整備し人口を増やすことができる。ときおり隕石が降ってくるため移動は欠かせない。近くにいるコロニーどうしは、プライバシーを明かさずとも交信や資源のやりとりができる。敵も目標も競争もないが、隕石のような災害があるため助け合いの文化が自然に生まれる……、といった基本的なゲームの構造は、馬場が最初にコロニナをはじめたときからそのままで、現在にも受け継がれています」

馬場氏はその後、携帯ゲーム会社にエンジニアとして就職するが、プライベートの時間を使ってユーザーへのサポートを続け、サービスを継続。2005年にはバージョンアップして「コロプラ」(コロニーな生活PLUS)と改称し、馬場氏の自宅に置かれたサーバーも地道に増強が続けられた。

GPS義務づけでユーザーが拡大

馬場氏の趣味として維持されてきたコロプラが、大きく飛躍するきっかけとなったのは、総務省令「事業用電気通信設備規則」の改正だった。

2006年に公布され2007年4月から施行された同省令の付則には、3Gの携帯端末にGPS機能かそれに準ずる位置通知機能を備えることを義務づける、という一項が加えられていた。

背景には緊急通報の混乱があった。携帯の普及で、屋外からの110番・119番通報が急増したが、公衆電話などと違って、通報者自身がその場所を把握できていなかったり、県境付近からの通報が隣県の司令センターに転送されたりというケースが頻発し、大きな問題となっていたのである。

この状況を改めるため、緊急通報時には自機位置も同時に司令センターに自動的に知らせるシステムが整備され、携帯電話へのGPSモジュール搭載が義務づけられた。

かくしてすべての携帯ユーザーがコロプラの潜在ユーザーとなり、馬場氏は急増するユーザーのサポートにますます個人の時間を奪われることになる。

結局ゲーム会社を退職し、2008年10月、運営会社「コロプラ」を設立。このときのユーザー数は約5万人にまで膨れ上がっていた。千葉氏は続ける。

「まずゲームの世界観を維持することが大前提。そして法人化にあたって、ビジネスのコンセプトを固めることでした。たとえば楽天ならばショッピングが、クックパッドならば料理がエンターテインメントとなっている。ならばわれわれは日常の移動そのものをエンターテインメントとして、ユーザーに提供する企業にしよう。コロプラを移動│われわれの言葉では『お出かけ』と呼んでいますが│のきっかけにしよう、というものです。そしてもう一つ大事なのが知財・法務面でもしっかりと足場を固めること。『位置ゲー』の商標登録申請もそうですし、ビジネスモデルや特許についても、IT業界で超一流の弁理士さんらのチームの協力を得ています」

法人化以降、「コロプラ」は毎月10%前後のユーザー数の伸びを続け、18カ月で109万人を上積みするという拡大を見せた。それにつれ新聞、テレビ、雑誌、ウェブ媒体などメディアへの露出が急増。これがさまざまな企業からの提携案件を呼び込み、社会での存在感を高めるという循環を生み、現在に至っている。

地方の名店をユーザーに紹介

コロプラは、プレーヤーだけでなく、プレーしない人にとっても魅力あるゲームとなっている。その魅力の源泉は『コロカ』を使った『お土産』のシステムだ。

「全国各地にその土地ならではの名物や特産品を売る老舗があり、どこも集客に智恵を絞っています。コロプラでは、あるお店の半径1㎞以内まで出向くと、ゲーム内のバーチャルな世界で特別な『お土産アイテム』を入手できるというしくみを作り、2009年3月から日光甚五郎煎餅を製造販売する石田屋さんと共同で実験的取り組みを始めました。これが全国のユーザーの間で話題となり、多くの人が日光に足を運ぶきっかけとなりました。さらにそのお店が設定した一定額以上の商品を買うと『コロカ』と呼ばれるカードをもらうことができ、そこに記された番号を入力することでゲームの中の世界でもさらにレアな『お土産アイテム』を入手、自分のコレクションに加えることができる。つまりバーチャルのコレクションと、リアルの移動を結びつける販売促進のしくみを作ったわけです」

2009年6月に、この日光の煎餅屋と、有田焼の窯元、加賀の造り酒屋、伊勢原のお茶屋さんの4店からはじまったコロカ提携店は、2010年5月末現在で全国61店ある。

「旅費をかけてでも行くべき名店を、3段階の選抜を経て選定しています。各県に4〜5店、合計200店舗以上には増やさない」

こうした姿勢がユーザーにクチコミで浸透。来店数増に驚く店主のコメントが繰り返しメディアで取り上げられ、ゲームをプレーしない人々にも認知度が上がっていった。新たな提携店の発表が地方紙で「○○○が、『位置ゲー』のコロプラと提携」とのヘッドラインつきで報じられるほど期待を集める存在となる。

かくして、ユーザーはお出かけのきっかけや旅の目的地を、提携店はこれまで手の届かなかった顧客層を、株式会社コロプラはユーザーや提携店の満足とともに物販に伴う手数料を手にできるという、すぐれたビジネスモデルが回りはじめた。

 

交通系企業と共同イベント

人を動かすビジネス、すなわち交通・旅行系の企業からも当然のように注目が集まり、タイアップ企画が動き出す。まず最初が「九州一周塗りつぶし位置ゲーの旅」(2009年11月から5カ月間の期間限定)。JR九州が発売した「コロプラ★乗り放題きっぷ」で域内の50駅を制覇するという、スタンプラリーであり札所巡りでもあるようなイベントだ。また、旅行代理店や地方自治体の協力で企画された『コロ旅』というツアーはプレーヤーのオフ会として人気を集める。マツダレンタカーとは割引特典で、ANAとも電子マネーEdyの利用で提携を結び、旅行予約のじゃらんnetとも協力関係にある。

東京メトロともJR九州と同様にスタンプラリー的な期間限定イベントを実施しているが、「各駅で食材を集め、架空のキャラに料理を提供する」という設定が加えられ、練りに練ったシナリオでプレーヤーにエンターテインメントを提供している。

「キャラクターの設定やセリフは外注せず、すべて内製しています。ストーリーがどう展開するかも、限られたチームだけの秘密。ゲームの世界観やユーザー体験に関わる部分なので、ここにはものすごくエネルギーを注いでいます。提携先や共同企画についても、ユーザーを裏切らないことをもっとも重要視しています。そしてあくまでわれわれはゲームであって、メディアではない。広告スペースを提供しているわけではないのです」

株式会社コロプラの収益は『投げ銭』と呼ばれるユーザーからの寄付と、コロプラが紹介した店舗からの販売手数料という2本立て。設立当初から無料サイトであることは変わらず、ユーザーからメールアドレスなどの個人情報も収集しない。だからそこには広告モデルはいっさい含まれていないのだ。

一貫した世界観のもと、すさまじい勢いで会員数を増やすコロプラに多くの企業が可能性を感じている。位置ゲーで人を動かすことで、人の流れをつくり、結果としてお金が付いてくるというスキームは存在し得たわけである。

 

日本を元気にする会社になりたい

「最近、宮崎県の口蹄疫に対し、正しい情報に基づいて冷静な行動を! とユーザーに呼び掛け、100万円の寄付を行いました。人の流れを作る会社だから、『コロカ』を一時的に無効にすることで人の動きを止めることもできる。しかしそれをやったら風評被害そのものであり、地元もそれを求めてはいない。観光には来てほしいし、移動時にきちんと消毒してもらえばいいわけです。

私自身もITベンチャー出身なのでよく分かりますが、この業界は日本のことをあまり考えてこなかった。でも生き残っているのは日本に受け入れられた会社ではないですか? 私たちも自分たちの事業が日本にとってプラスになるかどうかを意識しています。ゲームではあるけれどもユーザーに時間をムダ使いさせるのではなく、移動のきっかけをつくり、地方を元気にし、日本を元気にする。そして日本のGDP増にも寄与できる。そういうゲームにしたいと思っています」

執筆時点の会員数1 1 6 万人、2010年5月のページビューは16億PV。『位置ゲー』に秀でたコロプラの挑戦はまだまだ続きそうだ。