「素直になれなくて」は本当にTwitterドラマなのか?

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三浦一紀

映画、テレビドラマを原作物やリメイクが占めるようになったのはいつからか。ネタ探しの触手は当然のようにインターネットにも伸びる。そこに小さなほころびが見えているようだ。

脚本家北川悦吏子がT w i t t e r で炎上

2010年4月から、木曜夜10時にフジテレビで放送されているテレビドラマ「素直になれなくて」。このドラマは、日本初のTwitter をテーマにしたドラマということで、放送前からTwitter ユーザーの間で話題になっていた。原作と脚本を担当したのは、ヒットメーカーの北川悦吏子。出演は瑛太や上野樹里、玉山鉄二などが揃っている。

筆者はドラマに疎く(というかテレビ全般あまり見ない)、瑛太や玉山鉄二がどれほどの俳優なのかはあまりピンとこない。上野樹里は「のだめカンタービレ」で人気が出た女優であるということはわかる。その程度の知識しか持ち合わせていないのだが、Twitterドラマということで、この原稿を書く

ためにも少し見てみることとした。

ちなみに、テレビドラマを欠かさず見たのはTBSで放送されていた長渕剛主演の「とんぼ」以来。もう22年前だ。それ以来、テレビドラマはほとんど見たことがない。

実はこの「素直になれなくて」、Twitter ではドラマ本編とは違うところで盛り上がった部分がある。それは北川悦吏子のTwitter でのつぶやきが引き金。彼女はTwitter 初心者であることをカミングアウト。そのため、一部のネットユーザーからは「Twitterのことを知らないでTwitter ドラマ書くのか」とささやかれていたこともある。

そのようななか、4 月に彼女が「Twitter ができることをなんで偉そうに自慢するのか。Twitter ができないことをなんでばかにするのか」といった内容のつぶやきを投下。どうやら、Twitter ドラマの脚本を書こうとしたときに、周囲のTwitter ユーザーにばかにされたらしいのだ。

そして「Twitter なんて所詮システムだから覚えれば誰でも使える」「機械やシステムを使いこなせることを偉いと思うのはばかだ」といった内容のつぶやきを連続投下。これにより彼女のTwitter は炎上。そして最終的には、「これからリプライは見ない。ブログに戻る(ニヤリ)」とつぶやき、該当の発言を削除。そしてアクセスブロックをしてしまう。いわゆる「言い逃げ」を行ったのだ。

もしこれが、完全に予定された宣伝であったならば、すごい。Twitter ユーザーは否が応にも「素直になれなくて」を見たいと思ってしまうだろう。

 

愛称「スナナレ」でT w i t t e r 上で親しまれている

そんな騒動がありつつも、Twitterユーザーは「素直になれなくて」の第1回を視聴。もちろん、Twitter 上でリアルタイムにつぶやきながら。その際ハッシュタグは「#sunanare」と決められた。このことから、Twitter上では「スナナレ」の愛称で呼ばれることとなる。

さて、紆余曲折ありつつもはじまったドラマ。しかし、ドラマの内容は思ったほどTwitter がメインではない。

ざっとあらすじを書くと、Twitter上で仲良くなった3人の男子と1人の女子(全員20代)が、オフ会を開くことになった。女子は1人では行きづらいので、Twitter をやっていない親友を連れてオフ会に参加。ここからスト

ーリがはじまるのだ。

だが、この時点でTwitter 上ではさまざまな批判が飛び交う。「Twitterでの出会いはおじさん同士ばかり」「これではTwitter が単なる出会い系ツールのように思われる」といった感じだ。

要は、Twitter は単なるドラマ上の小道具に過ぎず、ドラマの本質は男女5人の複雑な恋愛模様を描く、よくある盛り沢山な内容のドラマなのだ。

ざっと見ただけでもトレンディなキーワードがかなり散りばめられている。

痴漢、 リストカット、 引き籠り、ストーカー、ブラック会社、万引き、

妊娠、 流産、 病気、ドラッグ……。

とにかく次から次へと問題が起きて、ある意味ジェットコースタードラマの

ような様相。じれったいとかそういう感じではなく、本当にあれよあれよという間に話が進んでいくといった感じだ

T w i t t e r ドラマなのにT w i t t e r 成分少なめ

と、ここまで書いてきて、この原稿のテーマを振り返ると、「Twitter ドラマ」であることを思い出した。だが、この「素直になれなくて」は、Twitter ドラマと呼ぶにはあまりにもTwitter が使われる場面が少ない。

筆者などは、仕事をしながらどうでもいいことをつぶやいたり、タイムラインに流れてくるつぶやきに突っ込んだりしているのだが、ドラマのなかの彼・彼女らは、それほど頻繁にTwitter を使っているわけではなさそう。おそらく、フォローしている人の数も100人よりは下。もしかしたら、10〜20人程度といった感じだ。

使っているシーンも、筆者が覚えている限りでは、一人でいつものお店に

来て「誰か暇な人いる?」とつぶやいたり、非常事態に助けを求める際に使

ったり。もう、仲間内の連絡手段としてしかTwitter を使っていないようだ。

おそらく、Twitter ユーザーのなかでも比較的年齢が若い層は、このような使い方をしているのではないかと思われる。というのは、Twitter を一生懸命やっているのは、ほとんどがアラフォー男子だったりするからだ(筆者も含め)。

つまり、「素直になれなくて」はもはやTwitter ドラマではなく、普通のトレンディドラマなのだ。ちょっと系統は違うものの、昔のテレビドラマ「ポケベルが鳴らなくて」のポケベルが、Twitter に変わっただけといってもよい。

しかし、テレビドラマというのはみんな好きなようで、毎週木曜日の夜10時になると、Twitter のタイムライン上がスナナレの話題で賑わう。もはやTwitter が出てくるとか出てこないとか関係なく「ナカジいい人すぎ」「ドクターよくやった」「熟年とキスなう」などといった、純粋にドラマを楽しんでいるようなつぶやきが多くなっている。

たしかに、ちょっと目を離すと話がかなり展開してしまうため、しっかり見ないとわからなくなるという側面もあるが……。

 

T w i t t e r は出会い系? 妻のアカウントを夫が凍結

実は、最近Twitter 上でおもしろい事件が起こった。

Twitter を出会い系のツールと勘違いした夫が、妻のパソコンを取り上げ、アカウントを凍結してしまったのだ。アカウントを凍結させられた女性は、フォロー数、フォロワー数とも1000人を超える有名人ということもあり、彼女の身を心配する人も続出。アカウント自体はまだあるものの、つぶやきは5月13日以降まったくない状態である。ちなみにその女性(びちょんさん)のTwitter ページは「http://twitter.com/Bitchopin」。ここで彼女のつぶやきを見ることができるが、浮気や出会い系とは程遠い内容だ。

この一件が「素直になれなくて」と関係があるのかはわからない。しかし、少なくとも世の中には「Twitter は出会い系ツール」と思っている人がいるということはわかるだろう。

 

「電車男」のようなリアル感が感じられない

何話か続けて「素直になれなくて」を見たのだが、途中でどうにも耐えられなくなってきた。もともとドラマ耐性が低いというのもあるのだろうが、なんとなく居心地の悪さみたいなものが感じられるのだ。

たとえば、2ちゃんねるを舞台にした純愛ストーリー「電車男」などは、割と楽しく見ることができた。おそらく電車男は、実際に2ちゃんねる上に書き込まれた内容をもとに作られたノンフィクション(?)だからだろう。

実際の書き込みが原作だから、「電車男」自体は脚色こそあれ、リアルなドラマだ。主人公が何か書き込むたびに、いろいろな2ちゃんねらーがはげましたりアドバイスしたりといったことは、2ちゃんねるでは極稀ながらも起きることがあるので、見ているこちらも「おお、そうそう」と共感できた。

しかし「素直になれなくて」は、共感できないのだ。まさか、覚せい剤の売人たちに囲まれて襲われそうになったときに、助けを呼ぶためにTwitterを使おうとは思わないだろう。

「素直になれなくて」は、とにかく現代の生活にある刺激的なキーワードをどんどん出していくことで、事件がつながっていくストーリー。ある意味「そんなにいろいろなこと同時に起きないだろ」という、ドラマならではの非現実感がある。そこにTwitter という身近で現実感のあるツールが使われていることが違和感の原因なのではないだろうか。

筆者が知る限りは、電車男のようにTwitter 上で何かドラマチックな事件があったという記憶がない。昨年11月、横浜で起きた立てこもり事件を実況中継した話や、今年、原宿がデマで大パニックになった際の実況中継などしか思い出せない。こんな話は、ドラマにならないだろう。

 

T w i t t e r の皮を被った普通のトレンディドラマ

もし自分がTwitter ドラマを書くとしたら、Twitter で知り合ったまったく見知らぬ二人が、Twitter のリプレイやダイレクトメッセージを使いながらコミュニケーションを取り合い、最終的には立派な漫才師になる(笑)といった、Twitter をとことん使ったドラマにすることだろう。いっそのこと、Twitter 上で先の展開を募集して、その後のストーリーに反映させるといったやり方もありだ。そこまでやれば、堂々と「Twitter ドラマ」と言い切っても、誰も文句は言うまい。

初のTwitter ドラマということで注目を集めた「素直になれなくて」は、実は単なるトレンディドラマだったという残念感はぬぐいきれない。

しかし、あまりTwitter を知らない一般層から見れば、普通のトレンディドラマとして成立しているのだろう。これからは普通のドラマとして見ていくことにしよう。

ちなみに、「素直になれなくて」で一番印象に残っているのは、吉川晃司が瑛太のお父さん役ということだ。時代は流れていると実感した次第だ。