金融業の概念を変えるIT

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はじめて導入された決済ルール

銀行の役割には大きく3つあります。預金と貸出、為替です。為替とはほぼ送金のことを意味していて、売買等の決済の役割を果たしています。

この送金ビジネスをめぐっては、日本と海外では状況が大きく異なっています。海外、とくにヨーロッパでは諸国が陸続きということもあり、古くから国や地域を超えた人の移動も頻繁で、送金サービスの需要がありました。またアメリカでは、州ごとに銀行法が定められており、州をまたぐ国法銀行と州内だけに本支店を持つ州法銀行がありますが、その間が統一的なネットワークで結ばれていないこともあり、手数料が高かったりするという問題がありました。そうしたことから、送金業者が大きな役割を果たしており、さまざまなサービスが提供されています。

それに対し日本では、ATMをはじめ銀行のネットワークが広く細かく普及しており、銀行を介した送金に不便を感じません。そのため、決済手段の多様化がほとんど進みませんでした。

それを変えたのがITの登場でした。とくにネット上で利便性の高い決済手段が求められるようになり、さまざまな決済手段が登場してきたのです。

ところが日本では、決済全般に関する法律がありませんでした。為替をふくむ銀行の業務範囲については、業法として銀行法によって定められましたが、一般的な決済の規定は民法を準用するだけのものでした。つまり、銀行だけが特別な存在として、決済に関われる権限を持っていたのです。先ほど申し上げた大手IT企業が決済を扱うにあたって銀行と提携するような話も、理由はここにあります。

しかし現実には、さまざまな決済手段が存在してきたわけで、そこに守るべきルールを持ち込んだ。それが資金決済法といえると思います。

ただ、この法律に関しては、そうした真正面の理由と同時に、少しずつ増えてきた違法、またはクレームのある電子決済への現実的な対応という側面もあります。従来、電子マネーなどの発行元がいくらしっかりやっていても、末端の店舗まで管理するのはなかなか難しいものがあったでしょうし、また違法なコンテンツへの代価などに使われることもあったのですが、その現場を押さえることも非常に難しいでしょう。

さらに、規制を受けていない業者のユーザーが不利益を被っても、誰に訴えればよいかわからない。たとえば今や旅行チケットを申し込んだ旅行代理店が倒産しても、保険などなんらかのかたちである程度補償されますが、銀行以外の決済業者ではそのような保護をほとんどユーザーは期待できませんでした。こうした対策の第一歩として、統一したルールと一定の保証の仕組みを持つ事業者のネームリストを作成するという目的も、資金決済法には内包されています。

 

難しい企業コストと消費者保護のバランス

このような権利保護は、ユーザー視点からすれば、重要な問題だと思います。第一に守られるべきものと思いますが、反面、それと同時に運営する企業にとって負担増となるのもまた事実です。資金決済法では、そうした企業側の負担は、主に2つ挙げられます。供託制度と本人確認の手続きです。

まず供託制度については、資金移動業では、100%完全保証ということで、預かったお金を全額供託する仕組みになっています。このこと自体は確かに企業にとって大きな負担なのですが、その代わり供託する資金力さえあれば制度上は誰でも利用できる、つまり大幅な門戸開放を意味します。

この負担と開放のバランスが難しいのですが、銀行などの金融機関は法制度を含むさまざまな仕組みのもと、長年かけて潰れにくい組織づくりをしています。しかし、IT業をはじめとする一般の企業は相対的に、そこまでの組織づくりがあるわけではありません。開放を謳いながら、実質的には資金力の面から新規参入が困難な点はありますが、決済の安全性の点からもスタート地点としてはやむを得ないと思います。

ただ、2つめの本人確認手続きについては、あらためて振り返ると、今後、改善の余地があると思います。

振り込め詐欺をはじめ、最近になって送金を利用した犯罪が目立つようになってきました。そこで銀行の振り込みをはじめ、本人確認が厳しくなり、資金決済法でも警察などから犯罪への対策という点で強い要望があったと聞いています。その結果、当初、少額送金であれば本人確認は不要という枠組みが考えられていたのですが、結局は口座開設時に、すべて本人確認が必要ということになりました。

しかし、電子決済は主にネットでの決済を想定しており、ネットはもともと低コストを前提に運営されていることがほとんどです。そのため、銀行などの対面サービスと比べ、相対的に本人確認のコストが高くなってしまいます。

先日、あるアプリケーションを購入したのですが、私たち大学教員は割安のアカデミックパックの恩恵に与れます。ですが、インストールしてみると30日間の試用版であり、正式なインストールには、学校の身分証明書を携帯電話のカメラで撮影して送信し、シリアルキーをメールで配信してもらうことが必要でした。こうした手続きも、以前のような身分証のコピーを郵送するといった手間に比べれば楽になりましたが、それでも基本的にネットで完結するサービスを提供しているIT業界にとっては、本人確認をどう行うかは難しい問題です。

こうしたITによる決済は「お金の流れ」を非常に手軽にしますが、違法なお金の流れを抑えることを難しくします。資金決済法と(事業者の)ネームリストについて先にお話ししましたが、こうした犯罪抑止にかかる取り組みは、ITのコスト問題とバランスを取りながら進めていかなければならないことです。

ただ私自身、電子決済は少額決済にこそ有効と考えています。法制上、小さな決済と大きな決済を区分することは難しい面がありますが、小さな決済に対し過重な負担をかけるのは、角をためて牛を殺すようなものです。

今後は、たとえば10万円以下の決済には本人確認は不要といった、声をあげ続ける取り組みも必要だと思います。

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