日本の自動車メーカーの自動運転技術とドライビング・プレジャーの未来 自動車ジャーナリストに訊く②

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自動運転技術の進化は、人が車を操作する機会を減らすことになる。既に実用化されているアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)は、アクセルを踏まなくても一定の車間距離を保ちながら前車に追従して走行する機能などを備える。そして早ければ、2020年には自動運転車が発売されるという。自動車ジャーナリストの小野泰治氏に、「自動運転車が登場した後、運転すること自体の楽しさ(=ドライビング・プレジャー)は生き残っていくのか?」をうかがった。

 

自動運転の最大の目的は交通事故を無くすこと。ドライビング・プレジャーの妨げにはならない

――自動運転技術は、人が車を操作する手間を省く方向で進化していますね。

小野泰治氏(以下、小野氏):たしかに自動運転システムは、人に楽をさせてくれます。ただ、自動車メーカーが自動運転技術を開発している一番の目的は、自動車の事故を無くしたいということです。自動車事故を無くすため手段の一つとして、運転の手間を減らしているわけです。

もう少し具体的に説明すると、危ない状況に直面したときに、回避するための操作は人間よりも機械のほうが圧倒的に早い。結果的に人に楽をさせるようになっていますが、根本的な目的は人間にミスを起こさせないようにして安全を確保するのが狙いです。人間はどうしてもミスをしてしまいます。人間のミスをできるだけ減らすことを目指した結果、そのおまけとして運転の手間を省くようになっていったということです。

 

――自動運転技術が進化していけば、人が車を操作する必要が一切無くなるかもしれません。そうなると、運転に楽しさを感じる人もいなくなるのではないでしょうか?

小野氏:もし「人は自動車の操作をしてはいけない」という法律が制定されたとしたら、ドライビング・プレジャーを求める人もいなくなってしまうかもしれません。しかし、そういうことにはならないと思います。なぜかというと自動車の一番の魅力は、個人のモビリティであるということだからです。そうした魅力があるにも関わらず、それをすべて機械で管理するという考え方は、ヨーロッパではまず支持されないと思います。

 

――ドライビング・プレジャーを求める人が存在する一方で、やはり車の運転は面倒だと考える人もいますね。

小野氏:もちろん車の運転が嫌な人もいるでしょう。逆に車の運転が好きな人でも、疲れていたりして今は運転したくないという時もあると思います。ですから自動運転システムが実用化されたら、その機能を使うかどうかは人が任意で切り替えることができるようになるはずです。既に実用化されているACCなどの運転支援システムも、使うかどうかは運転者が選択できるようになっています。

 

――近年、若者の車離れが進んでいるといわれています。自動運転の実用化は、若者の車離れに何か影響を与えますか?

小野氏:若者の車離れが起きているのはたしかですが、それはホビーが多様化しているからです。趣味としての自動車のプライオリティが高かったのは、今30歳代後半~40歳くらいまでが最後の世代ではないかと思います。それより下の世代になると、例えば携帯電話のゲームやテーマパークなど、遊びでお金を使う選択肢が増えました。

自動車をホビーとして見た場合、他に比べてものすごくお金がかかります。自動車に興味が無いわけじゃないけどそんなにお金をかけることができない、というのが若者の本音だと思います。ですから自動運転の実用化は、若者の車離れにはあまり影響しないと考えています。

 

――自動運転が実用化されても、ドライビング・プレジャーは生き残ることはできますか?

小野氏:昔と比べて自動車にお金をかける人の数が減っていることに対して、業界全体が危機感を持っているのは事実です。トヨタ自動車も若者に向けた啓蒙活動を行っており、実はその結果が表れ始めています。2012年に発売されたスポーツカーの「トヨタ 86」の30歳以下の購入割合は、発売初年度が12%、2年目が15%、3年目が18%と、年を追うごとに増えているんです。

自動車メーカー各社は、自動車が単に便利な乗り物として売れる物だけを作るのではなく、楽しい乗り物であるということをアピールしていこうとしています。そしてそれに応える層も確実に存在します。車を運転することの楽しさをユーザーにきちんと伝えていくことができれば、自動運転が実用されてもドライビング・プレジャーは無くならないと思います。

 

profile: 小野泰治
自動車評論家・ライター。自動車専門誌の副編集長をへて、2010年からフリーランスとして活動。運転が好きでレースの出場経験もある。
Photo credit: NVIDIA Corporation / CC BY
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