小説投稿サイトの作品『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』を 大ヒットまで導いた仕掛けとは? 梶本雄介氏インタビュー

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東京・銀座に突如として謎の門が現れて、中から剣と鎧をまとった軍勢が攻めてきた。なんとか未知の軍勢の撃退に成功した自衛隊は、そのまま門内へと進み、異世界の調査に赴くことになる。人気小説『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』のあらすじだ。

同書は小説投稿サイトに連載され、2010年からアルファポリスが発行を手掛けるヒット作。2015年から2016年にかけてアニメ化され、数少ない骨太なファンタジー作品として高い評価を得た。なぜこの物語が多くの人に受け入れられたのかを、同社の梶本雄介代表取締役に聞いた。

—『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』(以下、ゲート)はなぜヒットしたのだと思いますか?

梶本雄介氏(以下、梶本)

『ゲート』は分類としては流行の異世界ファンタジーものです。しかしながら単純なファンタジーとは違っており、自衛隊とそれを取り巻く、政治、メディアという、常に議論が絶えない論点を扱おうとしたことが大きかったのだと思います。

加えて作中では、異世界を新天地と見込むアメリカやロシアの思惑や、異世界における中世の封建的な政治体制を描いています。政治論、文明論といった複数のテーマ性があるわけです。

それに政治と動乱がベースの叙事詩や軍記物のような側面がありますから、ドラマ性が強くて読者を引き込む力がとても強い。そうした全ての要素が上手く合わさって、ファンタジー好き、ミリタリー好きをはじめとした、幅広い読者層にささったのではないかと思います。

 

 

—主人公は伊丹という脱力系のオタク自衛官でしたが、彼の設定について解説をお願いいたします。

梶本:やる気のないヒーローは、昔からいましたので、ゲートが特別ということはないはずです。あだち充さんの作品に登場するヒーローは、力が抜けているのではないでしょうか。『タッチ』の達也は普段はやる気がなさそうですが、決める時は決めていました。『うる星やつら』の諸星あたるも同じです。熱血でないタイプは、割と典型的なヒーロー像だと思います。

それよりも『ゲート』の伊丹の設定で注目すべきところは33歳という年齢です。20代どころか、三十路すら超えています。従来の日本のファンタジーものでは、基本的に20歳を超えたヒーローはありえませんでしたから、伊丹はそのカベを壊してくれました。

彼は、主要な読者の年齢層が30代であることから、生まれたヒーローです。

1980年代後半の『ロードス島戦記』など初期ライトノベルでファンタジーが好きになった人たちが、30歳を超えて現代でファンタジーを読もうと思っても、今までは読めるものがそれほどありませんでした。さすがに中高生向けの学園ものばかりを読む気になれませんからね。

『ゲート』は大人のヒーローが活躍する、大人向けのライトノベルなわけですから、本の形もライトノベルと差別化を図りました。一般にライトノベルの形状は、文庫サイズで、表紙や挿絵のキャラクターは3頭身です。対して『ゲート』では、判型は一般書と同じ四六判、人物の絵柄は6〜8頭身で、背景もしっかり書き込んでいます。

 

—アニメ化の反響は大きかったと思いますがいかがでしたか?

梶本:大きかったです。不思議なものでアニメの人気と、本の売れ行きは必ずしも連動しません。本は売れたけれどアニメは不人気だった。アニメは人気だったが、本やDVDはあまり売れなかったといった例がざらにあります。そんななかで『ゲート』はアニメも本も大成功でした。

もともとのコアなターゲットが30代のため、10代の読者はほとんどいませんでした。ところがアニメの影響で若い人の間でも人気に火が付いて、そのおかげで読者の層が広がりました。

今後もネット小説を出版する上で、アニメ展開はもちろん望まし形ですし、ゆくゆくはゲームも含めて、メディアをクロスした作品の連動・展開もやっていきたいと思っています。その可能性を強く感じさせてくれる作品でした。

 

 

 

梶本雄介 Yusuke Kajimoto
1993年、東京大学工学部を卒業し博報堂入社。2000年にアルファポリスを設立し社長に就任、現在に至る。ポータルサイト「アルファポリス」は個人が小説や漫画などを投稿でき、閲覧は無料、会員登録したユーザーが作品の評価を行うしくみをとる。編集部はユーザーの評価を鑑みながら作品を書籍化する。投稿コンテンツの累計は16年3月末時点で約3万点。このうち500作品超が上梓された。
Photo credit: fuba recorder / CC BY
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