ハリウッド映画より先を行っている!? 日本のオタクコンテンツがとっくに通過した「人工知能との恋」〜アニメが描いた日本の現在と未来③

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稲田豊史(構成・文:3rd.mobi編集部)

『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎)著者の特別連載・第3回。ロボットの“性”をいちはやく認めた日本のオタクカルチャー。それは世界を先駆するものだった。

 

異様なまでに進化した日本産SF

 

2015年度の第88回アカデミー賞で、イギリス映画『エクス・マキナ』が視覚効果賞を受賞しました。大ヒットした原作小説やヒット作の続編、著名な出演者で話題をさらおうとする作品が耳目を集めるご時勢のなか、この映画はオリジナル脚本。その骨太なSFストーリーが評価されました。作中で問われているテーゼは「人工知能から愛情は生まれるか」というものです。

日本での公開は1年後の2016年で、SFが大好きな私は早速この映画を見に行きました。しかしながら、残念なことにと言うべきか、やはりと言うべきか、アニメ・マンガ・ゲームを中心とした日本のオタクカルチャーを知る私にとって、人工知能と愛をめぐるシンプルなテーマに、際立った新鮮味はありませんでした。この程度のSFは、日本産のアニメやマンガやゲームでいくらでも見たことがあったからです。先端どころか、時代が巻き戻ったかのようでした。

日本のSF作品では、もっと複雑な設定に基づく、もっと深い人工知能への考察が、すでにいくつも進められており、人類の未来を鋭く暗示する名作がいくらでもあります。

たとえば、『エクス・マキナ』では、100%機械の体を持つ人工知能がヒロインでしたが、日本の『攻殻機動隊』であれば、体の何%が肉体であればヒトと呼べるのかといった、一段深い命題を20年以上前に設定していました。

女性型ロボットとの恋愛を論じるのであれば、彼女たちは日本では90年代から2000年代のオタク向け作品を中心に量産されましたから、まったくもって珍しい存在ではありません。作中に何人も設定されている若い女性キャラ、いわゆる「萌えキャラ」の中に、美少女ロボットが混じっているという作品は、ひとつやふたつではないでしょう。

よく知られているのは、1997年にPCゲームとして発売されたビジュアルノベル「To Heart」です。攻略できるヒロインのひとりに、マルチという愛称の女性型メイドロボットがいます。

彼女は耳の部分が機械化されている他は、人間の少女と外見が一緒。感情はあるものの、ロボットゆえにどこか自意識が欠如したような不安定さがあり、だからこそ一生懸命に人間と馴染もうとする姿が、当時のオタクの庇護欲をがっちりつかみました。はっきり言ってしまえば、女性型ロボットを性愛の対象と認めたのです。

よくよく考えてみると、女性型メイドロボは、内向的で女性にもてないオタク男性にとって、非常に魅力的な存在です。人工物のロボットが意味するのは、本質的には内面が空っぽであるということ。つまり、自分の絶対的な支配下に置いたうえで、その優位性を永続的に保つことができるのです。現実の女性とのコミュニケーションが苦手なオタクたちにとって、これほど快適な関係性はありません。

「空っぽな女性」と同様、「記憶がない女性」や「未成熟の女性」も、オタクが快適に優位性を抱くことのできる対象です。「記憶がない」は心に問題を持った女性、「未成熟」はロリコン対象としての少女、とも言い換えられるでしょう。90年代を代表するアニメヒロインである『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイは、「人造人間ゆえに空虚」「過去の経験値がない」「14歳の少女」なので、オタクにとっては「理想的な女性」です。

このように、日本のオタクは人工知能との愛をとっくの昔に受け入れており、同様の物語を浴びるように摂取していますから、『エクス・マキナ』を「今さら」と思ってしまうわけです。

オタク男性たちが、このような不健全な欲望をフィクションのみによって満足させようとするのは、なかなか大変です。パートナーと共に成長する、あるいは、子どもが生まれるといった、実体をともなう満足が得られない代わりに、次の作品、次の作品と、より刺激の強い新たなフィクションを摂取し続ける必要が出てくるからです。

それゆえに、日本のオタクコンテンツは、高速で誕生と消費を繰り返しており、ロボットやSFなどの分野は、類のない奇形進化を続けているといえるでしょう。

 

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Author profile:
稲田豊史 Toyoshi Inada / 編集者、ライター
映画配給会社、DVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランスとなる。得意分野は、映画、マンガ、アニメ、女子論ほかポップカルチャー全般。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)など。
Photo credit: Danny Choo / CC BY
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