ネットと書籍でどう違うのか? 読者レビューが可視化されている環境が、小説本来のおもしろさを取り戻す。  梶本雄介氏インタビュー

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アルファポリスが得意とするのはネット投稿小説の書籍化。出版する側から見ても、作品を書く側から見ても、これまで出版社がとってきた出版フローとは一線を画しているといっていい。方やネット投稿、方や出版社への持ち込みや文学賞への応募という出自の差によって、作品にどのような違いが生まれるのかを、同社の梶本雄介代表取締役に聞いた。

 

—同じ小説のネット版と書籍版に違いはありますか?

梶本雄介氏(以下、梶本)

ネットの投稿小説を書籍化するにあたって、編集者の手が入りますから違いはあります。ネット版では作家さんの思い入れが強く、それは良いことなのですが、文章が冗長になりがちです。場面展開が同じであったり、内容の整合性がとれていなかったりすることもあります。ネット上で読むと、ある程度は許せたり、気にならなかったりするのですが、じっくり読む書籍の場合はそうはいきませんから、編集者の助けが必要です。

何だかネット小説のネガティブな部分だけが強調されてしまいましたので、読者の反応がリアルタイムで見られるという、強力な長所があることを指摘しておきたいと思います。連載中に読者の反応を見ながら話を展開していくことだってできます。

 

—ネットでは文章が多少きっちりしていなくても、読者はあまり気にしないんですね

梶本:小説の内容がおもしろければ、文章が荒削りだったところで大きなマイナスにはなりません。歌手の方を見ても、歌はけっして上手とは言えないけれど、なぜだか人を惹きつけて止まない人がいるでしょう? 小説の場合もそれと同じで、拙いかもしれないけれど、人を惹きつけるおもしろい作品があります。

弊社の投稿サイトでは、読者が良いと思った作品にポイントを付与するしくみをとっています。力のある作品は荒削りであろうが、高得点が得られて、ランキングの上位に上がってきます。普通の出版社であれば、選考からはじかれてしまう作品が、純粋な内容のおもしろさで人気が出るのですから、ある意味で出版の本来とるべき姿をとっていると思っています。

 

—権威や作家の評価で賞をとってから出版という形ではなくて、読者の評価という見える形で本になるのは風通しがよくて気持ちがいいです

梶本:人気作が世に出るまでには、弊社の場合も編集部の方針が入るので完全に透明とはいえません。しかし限られた人物たちだけによる密室会議とはわけが違います。読者の反応がリアルタイムに人気に反映されて、そこから本が出る流れは、作家にとっても、読者にとっても、お互いの求めるものがわかるのでいい状態といえるでしょう。読者のニーズが目に見えることは、私たち出版する側にとってもありがたくて、流行の度合いがデータになって現れるのは非常に大きいものがあります。

 

—荒削りだけれども良い作品が認められる一方で、凝ったレトリックを楽しむ作品は少ないと思うのですが、そのあたりはどう思われますか?

梶本:まったくないわけではありませんし、文学や文芸に近いものは、数こそ少ないながら徐々に生まれてきています。静謐な文章とSF的な物語が持ち味で知られる市川拓司さんはネット小説出身で当社から書籍化デビューしました。2015年に話題となった『君の膵臓をたべたい』もネット小説でした。

ネット小説ではいわゆる文学作品よりも、ファンタジーや恋愛・ロマンスが強いのですが、これから文学系も含めた他のジャンルが増えてくると思います。例えば時代小説。時代小説が好きで、会社を引退した人たちは、今や仕事でネットに親しんでいる層ですから、こういった人たちが書いてくれることを期待したいと思います。60代以上のヒーローが主人公の物語が出て来たらおもしろいですね。

 

梶本雄介 Yusuke Kajimoto
1993年、東京大学工学部を卒業し博報堂入社。2000年にアルファポリスを設立し社長に就任、現在に至る。ポータルサイト「アルファポリス」は個人が小説や漫画などを投稿でき、閲覧は無料、会員登録したユーザーが作品の評価を行うしくみをとる。編集部はユーザーの評価を鑑みながら作品を書籍化する。投稿コンテンツの累計は16年3月末時点で約3万点。このうち500作品超が上梓された。
Photo credit: Futurilla / CC BY
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