「魔法少女」から「戦闘美少女」に至る歴史〜アニメが描いた日本の現在と未来⑤

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稲田豊史(構成・文:3rd.mobi編集部)

『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎)著者の特別連載・最終回。連綿とつづく魔法少女アニメの系譜が日本の社会に与えた影響を探る。幼少期の魔法少女アニメ視聴が現代女性のアイデンティティを担保する?

 

『美少女戦士セーラームーン』以前と以後

 

2011年に日本で大ブームを引き起こしたTVアニメがあります。『魔法少女まどか☆マギカ』。キャラクターデザインは、可愛らしい少女の絵に定評がある蒼樹うめ氏。脚本は、不条理な暴力と主要人物の突然の死を持ち味とする虚淵玄氏が担当しました。

ブームの理由は壮絶なストーリーにありました。ふわふわのドレスを纏った可憐な少女たちが魔法の力で闘うという基本設定やビジュアルは、いかにも「オタク受け」する定番の「萌え」要素を含んだ作品に見えます。しかしながら本作では、魔法を使うためには非常に大きな代償を支払う必要がありました。敵は自分たちの存在を根本から否定するような相手であり、非常に重苦しいテーマを扱った作品だったのです。その壮絶な物語と禍々しい世界観は、従来の魔法少女像に対するアンチテーゼを提案したものとして、驚きと熱狂をもってアニメファンに受け入れられたのです。

日本では昭和の時代から「魔法少女アニメ」というジャンルが確立しています。その源流は、『魔法使いサリー』(1966〜68年放映)『ひみつのアッコちゃん』(1969〜70年放映)あたりでしょう。

黎明期の魔法少女アニメでは、多くの場合、現実から切り離された魔法の国や異世界が登場します。主人公は、魔法の国から来た訪問者であったり、異世界の住人から魔法の力を託された普通の少女であったりします。彼女たちは魔法の力で大人に変身し、身の回りで起こるちょっと困ったことを、ささやかな特殊能力で労せずに解決していきます。『まどか☆マギカ』の深刻さなど、微塵もありません。

『まどか☆マギカ』と違い、敵が登場しても世界の存亡にかかわる深刻な事態は起きません。問題を解決するのは、制限はあっても代償はない不思議な魔法の力です。「努力をしても報われない」といった現実世界の無情さなどは、ほとんど描かれませんでした。

1980年代に入ると『魔法のプリンセス ミンキーモモ』が魔法の力の限界を、『魔法の天使クリィミーマミ』がアイドルと芸能界という世界を細やかに描きましたが、やはり「世界の存亡」レベルの深刻度とは無縁でした。

この頃の放送時間は地域によって違うものの、概ね夕方の5時あたり。学校から帰宅し、夕食の前の子どもが必ず家にいる時間帯です。今の40代前後の女性はこれらの作品を見て育ち、「おしゃれで可愛い女の子への変身願望」「成長願望と職業への憧れ」といったカタルシスを、健全に満たしていきました。

しかし1992年、『美少女戦士セーラームーン』という作品の登場で魔法少女アニメに転機が訪れます。国内では社会現象化するほどヒットし、のちに海外でも大人気となる本作は、過去の魔法少女アニメとは一線を画していました。

まず、少女がひとりではなくチームを組んで悪を倒すという点。平和的でファンシーな魔法ではなく、攻撃的な必殺技を使って敵を撃退するという点。そして主人公たちは世界の存亡をかけて戦っているという点。これらの新規性から、本作は「戦闘美少女もの」というジャンルの代表的作品としてアニメ史に名を刻むことになりました。

『美少女戦士セーラームーン』ファーストシーズンの敵の正体は、主人公の前世の恋敵で、嫉妬のためにダークサイドに落ちた魔法使いでした。また、主人公にだけ恋人がいたり、女子同士の友情を丁寧に描いたりするなど、従来の魔法少女ものとはまったく違う作風も特徴でした。「ふわふわでかわいいだけの魔法少女」から「悩みながら闘う少女戦士」という、リアリティある新しい女性の理想像を描いたのが本作だったのです。

『セーラームーン』に熱狂して育った世代は現在、30歳前後の大人の女性となり、職場や社会で中核を担いつつあります。彼女たちの価値関係性、精神性や仕事観に本作が与えた影響はかなり大きいといえるでしょう。このあたりは拙著『セーラームーン世代の社会論』にまとめているので、ご一読いただければ幸いです。

「セーラームーン」シリーズは1997年まで、5年間にわたって放映されました。そして本作が魔法少女ものの定型を壊したことで、以降さまざまな形の魔法少女作品が登場したのです。

『セーラームーン』と同じ東映アニメーションが制作した「おジャ魔女どれみ」シリーズ(1999〜2002年)や、2004年から現在に至るも継続中の「プリキュア」シリーズは、『セーラームーン』の後継作とも言える女児向け魔法少女ものとして、ジャンルを踏襲しています。

一方で、2004年から断続的に続いている「魔法少女リリカルなのは』シリーズは、主に男性アニメファンをターゲットにした戦闘美少女ものです。その系譜の最新型が『魔法少女まどか☆マギカ』である、と見ることもできるでしょう。今後、魔法少女もの、戦闘美少女ものはどのように進化・変貌していくのでしょうか。実に興味深いところです。

 

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Author profile:
稲田豊史 Toyoshi Inada / 編集者、ライター
映画配給会社、DVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランスとなる。得意分野は、映画、マンガ、アニメ、女子論ほかポップカルチャー全般。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)など。
Photo credit: flexgraph / CC BY
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