ウェブは“空間”を資源化する〜ソーシャル時代の情報空間論 第4回

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テキスト 鈴木 謙介
社会学者 関西学院大学准教授

 

オンライン(ウェブ)とオフライン(リアル)との間における、ヒト・モノ・カネ・データの交通が激しくなっている。O2O、オムニチャネル、IoT……、キーワードは無数にあり、ウェブとリアルの融合は進む。では、リアル空間がウェブ情報と切り離せなくなったとき、それぞれをどの視点から評価すればよいのか? 内包される問題について、精力的な活躍を続ける社会学者が論じる。

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情報空間の概念的な整理

 

以上の分析から、ここで扱う「情報空間」は、次ページの図4のように整理できるだろう。縦軸は「空間の意味の物理空間からの独立の度合い」であり、上に行くほどその度合いが高い。横軸は「空間の意味を生み出す要素」である。こちらも、右に行くほど空間の固有性とは無関係な要素が意味を生み出すということになっている。

図4

図4 情報空間の概念的な整理

この図にここまで挙げた例を配置してみると、右上に行くほど空間の意味のダイナミクスが大きくなっていることが分かるだろう。すなわち、ネットなどを通じた電子的なコミュニケーションによって、空間の意味を上書きするような情報空間であるということだ。

私が特に注目したいのは、この「コミュニケーションによって空間の意味が上書きされる」という現象だ。上書きということはつまり、物理空間が本来持っていた意味が失われたり、無視されたりしているということである。だとすれば、そこには当然、物理空間と情報空間の間の対立や葛藤が生じるはずだ。

ただ、物理空間の意味を上書きするようなコミュニケーションが局所的なものでしかなければ、そうした対立もごく限られた領域でのみ起きると考えられるので、わざわざ問題として取り上げる必要もない。また、その対立が特殊な条件の下でしか起きないというのなら、考えるべきはその条件の方であって、情報空間のような広い枠組みで考察を進めるべきではないだろう。

議論を先取りして説明するならば、物理空間の意味と対立するような情報空間の意味を生み出すコミュニケーションは、社会全体に広がるほど量的な拡大を見せることはないだろうと思われる。だが、情報空間を生み出すようなコミュニケーションそのものは今後も拡大し続けると考えられるし、それもどんどん特別なものではなくなっていく。

一部ではあるが特別ではないことを「偶然」という。つまり、物理空間と情報空間の対立は、社会のどこにでも、単なる偶然で発生しうるということだ。情報空間という射程の広い概念を用いながらこの問題を考えなければならない理由は、そこにある。

一般的にO2Oというと、ウェブの情報(Online)でリアルの店舗(Offline)に消費者を誘導するマーケティング手法のことを指す。おそらくこの言葉もWeb2.0 やソーシャル、ビッグデータなどと並んで、その内容・手法の曖昧さと使い勝手の良さから、ウェブ業界の新たなバズワードの列に並ぶことになるだろう。しかしながら、バズワードだから扱っても意味がないとか、流行の実質がないと判断するのは早計だ。というのもO2Oに注目が集まる背景には、ウェブを支えるビジネスモデルの変化があると考えられるからだ。